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 「船に乗るにはどう命令したらいい?」

 スタッフの問いかけに、子どもが色付きのブロックを一個、二個と指示盤に置き始めた。目の前の大きな布製マップの上を、箱形ロボットが指示通りに動く。緑を置けば前へ1マス進み、黄なら左で、赤は右。船の絵のマスにロボットが着くと、拍手が起こった。

 香川県三豊市で9月に開かれた「3歳からのプログラミング体験会」。5歳と3歳の姉妹を連れてきた母親(39)は「小学校でプログラミングが必修化されたけれど、それが何をさすのかわからなくて。思ったより、とっかかりやすいのかな」と話した。

 主催したのは「みとよAI社会推進機構(MA(マ)i(イ)Z(ズ)M(ム))」。人工知能(AI)研究の第一人者で、東京大学大学院の松尾豊教授(45)の研究室と、市、香川高専が連携し、2019年4月に設立した一般社団法人だ。市の財田支所を拠点としている。

 AIを活用して人口減社会の課題解決をめざす山下昭史市長(54)の肝いりで、県出身の松尾教授が18年6月に講演したのが始まり。8月には市内に詫間キャンパスがある香川高専も加わり、AIによる地域活性化の連携協力に合意した。AIを使いこなせる人材を育てようと、マイズムを立ち上げるまで1年足らずだった。

 幼児向け体験会のほか、小学生から大人までを対象としたプログラミング教室を1年で75回開き、約1300人が参加した。予約開始からすぐに満員になる人気ぶりだったという。

 マイズムに出向中の市職員、荒脇健司さん(45)は「興味をもつ層は広く、どんどん次のレベルをめざしたいとのニーズには応えきれないくらいだ」と語る。

 裾野を広げる活動の一方で、AI自身が学習するディープラーニング(深層学習)といった技術について、基礎から学ぶ講座も手がけている。香川高専の単位として認定されるAIサマースクールもその一つ。松尾研究室の講義が受けられ、今夏はコロナ禍を受けてオンライン化し、全国の高専の教職員や生徒にも無料開放した。

 マイズムで学んだ高専生の起業も相次ぐ。送電線の損傷をAIで検出するサービスをめざす三豊AI開発など2社で、いずれもマイズム内に事務所を置く。

 マイズム代表理事の山下市長は「小さな一歩かもしれないが、三豊の若者からベンチャーが生まれたことがうれしい。全力でバックアップしたい」と話す。

 AIで課題を解決する実験的な取り組みも始まっている。

 昨年の瀬戸内国際芸術祭では、市内の粟島に向かう港と駐車場の混雑状況を見極めるシステムが活躍した。画像から人や車を検出するAIの手法を応用し、香川高専生が開発した。

 混雑状況は、観光客らが一目でわかるよう市のホームページに表示。島と本土の間で、案内スタッフが電話で状況を伝えあっていた手間も省けた。今後は、観光スポットの人出や、公民館の利用状況が「3密」になっていないか検出するなどの活用法も検討する。

 ただ、AIを実装したサービスの広がりは急速で、競合事業者も少なくない。「ビジネスの芽を見つけてもすべて育つとは限らない。まだ手探りの部分もある」と荒脇さん。

 松尾教授は「イノベーションは意欲のあるところから生まれる。マイズムは、若者を育て、新しい技術革新を起こすことを、真正面からやっていきたい。結果はいずれついてくる」と話した。(多知川節子)

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