被爆の惨状を描き、反戦反核の象徴として世界的に知られる「原爆の図」(故丸木位里(いり)、俊(とし)夫妻作)に、「被差別部落」をテーマにした知られざる大作がある。所蔵する大阪人権博物館の休館で行き場が失われかけたが、武蔵野美術大(東京都小平市)に引き取られた。新型コロナウイルス禍の中で改めてふたりが作品に込めた意味が問い直されている。
「原爆――高張提灯(たかはりちょうちん)」と題したびょうぶ画で、縦189センチ、幅384センチある。位里と俊が共同制作した15部連作の「原爆の図」の番外編にあたる。1986年、東京・西武池袋本店で開かれた「いのち、愛、人権展」の出品作として描かれた後、博物館の前身、大阪人権歴史資料館に寄贈された。特別公開以外は収蔵庫にしまわれ「知られざる原爆の図」とも言われる。
題名の通り、大きなちょうちんが描かれ、その傍らでやけどを負い苦しそうにうずくまったり、助けを求めたりする人びとの群像が表現されている。燃えさかる炎を背に、力なくこちらを見つめる親子の姿や焼けた頭蓋骨(ずがいこつ)も見える。
武蔵野美術大の北沢智豊学芸員(40)は「日本画独特の技法である『たらし込み』でできた墨だまりがひび割れているほかは、保存状態は良好。描かれた時期から一連の『原爆の図』の集大成といえる」と高く評価する。
描かれているのは、原爆投下当日の広島市西部の被差別部落の人びとだ。原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)の岡村幸宣学芸員(46)は、丸木夫妻が同時期に「南京大虐殺の図」や「アウシュビッツの図」を描いていたことに着目する。
「夫妻は『原爆の図』の制作…