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 前回は米製薬会社ファイザーの新型コロナワクチンの有効率が9割以上というニュースを取り上げました。それからすぐに、米バイオ企業モデルナ社のワクチンが95%近い有効率を示したという報道がありました。重症化も防ぐ可能性があるそうです。「医心電信」ではモデルナのワクチンの第3相試験がはじまったことを8月に書いています。

 中間報告とは言え、わずか3~4カ月で結果が出るのは恐るべきスピードです。それにしても、別企業のワクチンがそれぞれ高い有効率を示したのは朗報です。一つの報告だけだと、偶然によい結果が出ただけだったり、何かの間違いだったりするかもしませんしね。

 ファイザーとモデルナのワクチンは、どちらもメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンという共通点があります。メッセンジャーとは「伝令」のことで、mRNAはDNAが持っているたんぱく質の情報を運ぶ機能があります。mRNAワクチンは、ウイルスのたんぱく質の情報を持ったmRNAを接種することで、細胞内でウイルスたんぱく質を合成させ、免疫反応を誘導します。ウイルスそのものではないので感染して病気を起こすことはありません。

 新型コロナワクチンは、mRNAワクチンだけではなく、不活化ワクチンやDNAワクチンなど多様なワクチンが開発中です。同じ感染症に対して、これほど多様なワクチンが試みられた先例はないと思います。これから、他のワクチンの結果も次々に報告されます。似たような抗原を対象に異なる方法でつくられたワクチンを比較することができ、ワクチンの研究が進むことでしょう。

 複数のワクチンが開発されているなか、mRNAワクチンの二つがまず結果を出したのは興味をそそられます。実用化されたワクチンの多くは生ワクチンか不活化ワクチンですが、生ワクチンは生きたウイルスを使うためごくまれに病気を引き起こすことがありますし、不活化ワクチンはいまいち免疫が付きにくいという欠点があります。もしかするとmRNAワクチンは両者の欠点を補うワクチンになるかもしれません。

 ただし、これまで実用化されたmRNAワクチンがないことは、安全性についても未知であるということでもあります。いまのところはファイザーのワクチンもモデルナのワクチンも、臨床試験を中断しなければならないような重篤な有害事象の報告はありません。しかし、数万人を数カ月間、観察しただけです。今後、多くの人にワクチンを接種しても大丈夫かどうかはまだわかりません。臨床試験が終了し、最終的な報告が出た後も、有効性や安全性に対する検証は続きます。前のめりにならずに粛々と検証を続けてもらいたいです。

《酒井健司さんの連載が本になりました》これまでの連載から80回分を収録「医心電信―よりよい医師患者関係のために」(医学と看護社、2138円)。https://goo.gl/WkBx2i別ウインドウで開きます

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信>http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/

酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。