染田屋竜太
大阪市都島区で今年7月、バイクで通勤中だった男性がクレーン車にひかれ、死亡した。葬儀には全国から166通もの弔電が寄せられた。大学の点訳サークルに入ったのをきっかけに、視覚障害の世界に人生を捧げた岡田弥(あまね)さん(56)=奈良市。活動を知る人たちは「残念でならない」と、その死を惜しむ。
「なぜこんなに早く逝ってしまったのか」。視覚障害者を支援する、日本ライトハウス情報文化センター(大阪市西区)の竹下亘(わたる)館長(62)は、絞り出すように話した。
岡田さんはセンターの中心的な存在で、サービス部長を務めていた。2001年、センター内に視覚障害者のための「エンジョイ!グッズサロン」をつくり、白杖(はくじょう)やパソコンソフトなどの改良に様々なアイデアを出してきた。来訪者にはつきっきりでパソコンや電子機器の使い方を教えた。
あちこちの障害者団体の会合に出て、休みなく動き回っていた。7年前、視覚障害者支援団体のホームページには「『見えにくさで困っている人がいればとにかく駆けつける』というのが、私がやりたいけれどもなかなかできないこと」「(障害者の)サポート体制が実現するなら、死ぬのはいやだけど死ぬほど忙しくなるくらいは我慢しようかなあ……」と記していた。
岡田さんら3人、展示グッズも数十点で始まったサロンは今や、スタッフ10人超、グッズも数百点を数える。設立10周年の2011年は岡田さんが東日本大震災の現地支援に行ったことなどから記念のお祝いができなかった。「来年の20周年を一緒に祝おうと話していたのに……」。竹下さんは悔しそうに話した。
岡田さんは7月2日朝、センターへバイクで通勤中に都島区東野田町の国道1号で、車線変更をしてきたクレーン車にひかれた。運転手の呼気からは基準値を超えるアルコール分が検出された。岡田さんは新型コロナウイルスの影響で普段の電車通勤からバイクにかえていた。
岡田さんと大学時代からの知り合いだった国立民族学博物館(大阪府吹田市)の広瀬浩二郎准教授(53)がその知らせをきいたのは、2日正午すぎだった。「信じられない、信じたくない」
京都大に入学した初めての全盲学生だった広瀬さん。2年先輩で点訳サークルで活動していた岡田さんに出会い、すぐ意気投合した。岡田さんは広瀬さんの下宿に何度も寝泊まりし、2週間の英国旅行も一緒に行った。
岡田さんは結婚式で、司会者に広瀬さんを指名した。「君は話し上手だし、適任だ」。当日は会場の様子を伝える人をそばに置いてくれた。「全盲の人が式を取り仕切るなんて誰も想像しない。でもあの経験が僕に力をくれた」と広瀬さんは思い出す。「目が見えないということを何かができない理由にしてほしくない」と、岡田さんはいつも言っていた。
広瀬さんは「岡田さんから『障…
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朝日新聞社会部