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 駅員がいない「無人駅」が全国各地で増えています。九州では、車いすの利用者が「乗車する際の介助に予約が必要なのは差別だ」として鉄道会社を訴えました。法律は、障害のある人が安心して暮らせるよう、社会の障壁を取り除く合理的配慮をうたっています。効率化の名の下、増えていく無人駅と誰もが使いやすい鉄道のあり方を考えます。

車いす事前連絡「差別」 「移動の自由侵害」JR九州を提訴

 駅の無人化は移動の自由を侵害しているとして、大分市の吉田春美さん(67)らは9月、JR九州を相手取って大分地裁に提訴しました。

 吉田さんは脳性まひのため、大型車いすがなければ移動できません。買い物や友人に会うためにJRを利用する場合、駅員らに手伝ってもらい、列車とホームとの間にスロープをかけて乗降車します。「電車に乗って好きな所で乗り降りしたい」と願っています。

 JR九州は2018年、大分市の三つの駅を無人化し、スマートサポートステーション(SSS)という仕組みを導入しました。駅に設置したカメラなどで遠隔管理し、非常時やインターホンで要請があった場合に職員が駆けつけます。

 ただ、職員が来るまでには時間がかかります。JR九州は介助が必要な場合、当初は無人駅を利用する前夜までに予約を、いまも可能な限り事前連絡を求めています。ただ、車いすの人には、駅員がいたときは必要なかった不利益変更で、どれだけ応えてくれるかも分かりません。吉田さんらは駅をいつでも利用できる障害がない人と比べて、連絡しないと利用できない状況は差別だと考え、裁判によって無人化に歯止めがかかることを願っています。(中島健)

JR九州 映像で見守り 無人化「交通網維持に必要」

 JR九州では、車いすの利用者らが駅での介助を希望する場合、事前の電話連絡が必要で、無人駅の場合も同様です。従来は「前日までの連絡」が必要でしたが、昨年12月から「事前の連絡」と変えました。担当者は「もともと当日の申し込みでも可能な限り対応していたので実態に合わせた」としています。何時間前までという締め切りは設けず「余裕を持って連絡を」と呼びかけています。

 管内の全568駅のうち無人駅は304駅。九州新幹線が部分開業した2年後の2006年度は227駅だったので、この十数年で約1.3倍に増えました。15年3月からオンライン映像で見守り、サポートするスマートサポートステーション(SSS)を無人駅などに導入し、現在、福岡、大分、鹿児島各県の計5路線41駅で運用されています。

 SSSの導入駅には、改札口やホームなどを見守る監視カメラがあり、画面に映った係員と対話しながら切符を買える精算機やインターホンを設置。オペレーターが遠隔で対応し、介助が必要な際はスタッフを派遣します。

 JR九州によると、SSS導入駅での乗降介助の平均件数は、路線やエリアごとに1日2件~10日に1件程度でした。

 九州では、ローカル線を中心に赤字路線も多く、豪雨で被害を受けた区間の鉄道復旧を断念するなど路線の維持さえ難しい現状があります。駅の無人化についてJR九州の広報担当者は「長期的な交通ネットワークの維持には、利用状況を見ながら効率的な運営をすることが必要で、その一環として駅の態勢を変更している」と話しています。

 他にも一部の特急列車のワンマン化、営業運転中の列車に載せたカメラによる鉄道設備の巡視といった効率化を進めています。九州新幹線も例外ではなく、全12駅中8駅のホームには駅員がいません。開業時は全駅のホームに配置していましたが、だんだんと減らして今の形になりました。民間企業としての経営と、公共交通機関として果たすべき「合理的配慮」とのバランスをどう取るのか、JR九州では検討が続いています。(原篤司)

無人駅4564駅 全体の48%

 全国の無人駅の数は約20年間で1割増え、全体の5割近くになっています。国土交通省がデータを取り始めた02年3月は全国で9514駅あり、うち無人駅は43.3%にあたる4120駅でした。ところが20年3月の駅数は9465駅とほぼ変わらないのに、無人駅は4564駅と増え全体の48・2%を占めています。

 割合が高いのは、北海道、東北、北陸、中国、四国、九州といった地方です。経営状況が厳しい地方鉄道に加え、都市部では一部時間帯に限った無人化も進んでいます。駅員が不在になり、電車の乗り降りに支障を訴える障害者も少なくありません。

 こうした声を受けて、今春のバリアフリー法改正では無人駅で事業者が障害者のために取り組むべきガイドラインをつくるよう求める付帯決議がつきました。国交省は来夏をめどにとりまとめる予定です。

 駅のバリアフリーをめぐる施策では、1990年代に兵庫県や大阪府などの自治体でつくられた「福祉のまちづくり条例」があります。駅のエレベーターや車いす用トイレの整備を事業者に促す内容です。その後国も施設整備のための補助制度をつくり、2000年の「交通バリアフリー法」で主要駅の整備を義務化しました。

 16年には障害者差別解消法が施行され、障害者が障害のない人と同じように行動できるようにするための対応(「合理的配慮」)を行政機関や民間事業者に求めました。その後は東京五輪・パラリンピックに向けた行動計画をつくって整備を進めていましたが、駅員の対応などのソフト面や、利用者が少ない駅の整備といった課題も出ていました。(贄川俊

わがままと切り捨てるのか 代理人の徳田靖之弁護士

 JR九州を提訴した原告らは、障害のあるなしにかかわらず、移動の自由は憲法で認められているということを主張の柱に据えます。障害のある人の場合、様々な場所で車いすを使うことや盲導犬を伴うことも保障されると考えます。

 障害のある人たちが、社会的障壁の除去を求めた場合に対応しなければならないという考えが「合理的配慮」です。障害者差別解消法は、合理的配慮を行政機関に義務づけましたが、民間事業者には努力義務にとどめています。しかし、訴訟の原告代理人の徳田靖之弁護士(76)は「JR九州は多くの人の移動を担う公益的企業で民間企業とは違う」と指摘し、「一定の乗降客がいた駅を無人化してサービスの提供をやめるには、それ相応の理由が必要」と訴えます。

 裁判を起こした後、原告や弁護士らは「障害者のわがまま」という批判にさらされているそうです。また、「廃線を防ぐために無人化は仕方がない」という意見もあります。

 しかし、徳田弁護士は「私たちは自由に映画を見たり、本を買いにいったりできますが、障害のある人は一回一回、『お願いできますか』と要請しないと列車を利用できません。車いすの人の視点に立ったとき、わがままだと切って捨てられるのか、考えてほしい」と訴えます。また、JR九州が将来、新幹線や駅ビルに経営資源を集中してローカル線や駅自体を廃止するのではないかと懸念しています。「無人化の先には必ず赤字路線の廃止問題が来る。『民間企業だから仕方ない』という論理が押し通されれば、どうやって止めるんですか。これは障害者だけの問題ではないと考えているんです」(中島健)

まず物理的障壁取り除いて 熊本学園大・東俊裕教授(障害法)

 障害者問題の本質は、一般の人との格差をどう埋めていくか、です。一般の人以上のことを望んでいるわけではないんですよ。

 駅が廃止されれば、障害者も一般の人も使えなくなりますが、それは障害者問題を超えた問題です。駅が無人化されると、一般の人もサービス低下など不利益を被りますが、障害者はそれ以上に、駅を使えなくなってしまう可能性が高いのです。

 問題は、障害者が使えない構造にしていることです。階段だって、一般の人の身体能力に合わせて段差をつくっておいて、障害者には障壁となる段差を解消する仕組みを十分に提供しないのが今の社会です。

 駅員が手助けすることで利用できる状況というのは、「物理的障壁」を取り除かないまま駅員という人的資源で解決してきたに過ぎません。

 車いすの私が住む熊本県の鉄道会社は、無人駅でも列車の乗務員が車両とホームの間にスロープをかけてくれるので、事前に連絡する必要はありません。ただ、それもホームにたどり着けるから可能なのです。

 今回、駅員がいることで利用できていた仕組みを不利益にしている点は積極的な障害者の排除です。私が、内閣府の障害者制度改革担当室長として策定に関わった、障害者差別解消法が求める「合理的配慮」の以前に、不当な差別的取り扱いだと考えます。

 事前連絡を求められれば、障害者は計画通りの人生しか送れません。生活の中で予定を組めないことはいっぱいあるじゃないですか。その場合、障害者は全く動けないことになってしまうのです。(聞き手・中島健)

外出機会奪われる ■どこかに妥協点を

デジタルアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 

●外出の機会が奪われないか

 車いすの方の外出支援をしています。公共交通機関の利用が難しくなることは明らかです。金銭的にも介護タクシーなどの利用は難しいため、外出の機会が奪われていると思います。(広島県・50代女性)

●「連絡受け対応」ぎりぎりの線

 「問題ない」「強いられるのはおかしい」とは思えないものの、「やむを得ない」と言う消極的な肯定である。「無人化」と言う限り、最近までは有人であったことが前提だが、地方鉄道の大部分はそもそも最初から無人駅ばかりである。鉄道会社の多くは少子高齢化や地方の過疎化、更にコロナ禍を受けて、輸送人員は今後右肩下がりだろう。また、JRグループや大手民鉄も維持する鉄道のほとんどは不採算路線である。それを都市部の黒字と付帯事業で穴埋めしていることを考えると、「黒字なのに無人化はけしからん」と言う理屈には賛同出来ない。連絡を頂ければ対応しますと言うのは、公共交通を担うものとしての責任を果たすぎりぎりの線だと思う。(神奈川県・50代男性)

●環境を整えれば無人も可能

 基礎的環境整備として、段差が解消され、ホームと車両の間も自動でスロープが出るようになっていたら、無人も可能だと思う。(愛媛県・50代女性)

●直前の予約も考慮して

 コストの問題で、それを運賃という社会全体で支えるのは無理となってきたというのは理解はするが、ルール作りが重要と考えている。

 障害があるからこそ体調などにより予約は大変ハードルが高いため、予約の方法、直前の予約(例えば、乗車する列車の有人駅発車の15分前までなど)もできるだけ考慮してほしいなとは思う。

 実際のところ、私の住んでいる地域はほとんどが無人駅で、数回ホームから落ちましたが、はい上がるのも自力なのでしんどいですね。視覚障害者です。(和歌山県・40代男性)

●どこかで妥協点が必要

 乗降客が少ない駅の無人化はやむを得ない。運転手や乗客の介助で運用するなどの対応策に知恵を絞ることが大切なのではないか。例えば地域のボランティアとの連携など。介助が必要な人が健常者と全く同等のサービスを受けられるのが理想だが、どこか妥協点が必要。(奈良県・60代男性)

●乗客に尋ねるのは勇気いる

 高校生の時までスマートフォンを持っていなかったため、めったに乗らない電車に乗る際はとても不安だった。駅員に、電車賃領収証の発行方法や乗り場の場所等を聞き何度も助けてもらった。無人駅にも乗客はいるが、質問するにはかなりの勇気がいるため、可能であるなら駅員にいてほしいと考える。(鹿児島県・10代女性)

●鉄道事業者とはいえ人材は有限

 人口減少していく中、駅の無人化は避けては通れない。鉄道事業者とはいえ、人材は無限ではないため、ただ単に無人化に反対することはわがままである。鉄道事業者は代替措置を用意しているのであるから、それに適応しないのは甘えにしか受け取れない。(東京都・20代男性)

●車掌がホームを巡回すべきだ

 各ホームに最低1人係員を配置するのが理想。介助を中心にする臨時職員でもよい。どうしても配置できない駅は停車時に車掌が必ずホームを巡回すべきだ。(東京都・50代男性)

●駅員は健常者の男性が大半

 運営している駅員さんが健常者の男性ばかりで、育児や介護の経験に乏しく、多様な利用者の気持ちが分からないように見える。障害者を雇ったり育児・介護する職員を増やしたりすべきだ。事前連絡は介助する方もされる方も大変。バリアフリー工事を進めてほしい。無人化するには、バリアフリー化が前提。他駅につながるのでもいいので、困ったときの通報先も必要。多言語の音声案内もほしい。(東京都・40代女性)

 全国の約5割の駅が無人だというデータは驚きでした。各社の経営状況を考えると、都市部の時間帯無人駅も含めてこの傾向はある程度受け入れつつ、不利益が大きい障害者への対応の問題はすぐに取り組まなければいけない課題です。

 各地で議論自体が深まらず、少なからず没交渉になっています。鉄道各社には今以上の配慮や説明できる余地があると思います。各社はまずこうした現状を真摯(しんし)に受け止めるべきです。そして駅ごとの障害者の利用状況を調べ、他社の先進事例を踏まえて障害者らを交えて議論し、できる限りの対応策をとっていく。これをその都度更新していく。こうした地道な取り組みでしか、答えは出てこないと考えます。

 国はようやく今回、鉄道会社から毎年報告を受けていた無人駅数を集計し、公表しました。議論の場を設け、あるべき配慮を一緒に模索し、指針を作ろうとする取り組みは重要な一歩です。少子高齢化社会が進むことも踏まえ、地域を巻き込みながら多くの人が問題意識を持つ契機にしてほしいです。(贄川俊