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 つい、友達と遊びすぎてしまった。家に帰ってごはんを作らないと……。でも、罪悪感ではなく、「たまにはいいじゃないか」と思える自己肯定感も必要かもしれません。どういうことなのでしょうか。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

夕ご飯、どうしよう……

 夕方が近づくと、食事を担当している人は誰しも「お、今日の夕ご飯どうしよう」と思案するのではないでしょうか。家に食材が豊富にあって、それらからインスピレーションが湧き、創造的に料理をすることに喜びを見いだせる人もいるかもしれませんが、問題はものすごく忙しくていつもより帰りが遅くなり、疲れていて、家に食材もそろっていないという時です。こうした状況では、「あー、時間がない! でも面倒くさい! どうしよう! 夕ご飯!」とピンチに陥りませんか? 外食するにも、まだ小さな子どものいる家にとっては夕方以降のおでかけはかえって体力を消耗します。

 ADHDの主婦リョウさんもこんな状況です。今日は久しぶりに学生時代の友達とランチにでかけて、その後もお茶をして、ついつい帰りが遅くなり、すでに午後5時。帰宅する頃には午後6時になりそうです。リョウさんのおうちは、毎日午後6時に夕食を食べます。こんな日に限って、冷蔵庫は空っぽ。今からスーパーに寄って買い物をして、帰宅して米を炊いて……。どんなに順調でも午後7時は過ぎそうです。そうすると、子どもが寝るのも遅くなります。リョウさんの娘は……。そういえば、今日はリョウさんの夫が平日休みの日で、ふたりで家で過ごしてもらっていました。

 リョウさんとしては、自分が「友達とランチ」という「遊び」の用事で帰宅が遅くなるのに、十分な夕食を準備できていないことに罪悪感がありました。夕食を作るという選択肢の他にも、現在はテイクアウトやデリバリー、外食という手もありますし、リョウさんの夫が作ることだってできるはずなのです。しかし、リョウさんはこの「罪悪感」から、どの選択肢も使えずにいます。これは非常にもったいないだけでなく、なにより娘さんのおなかがすいてしまいます。

 今回の「夕食何にする」問題は、ADHDに限った問題ではないでしょう。ただ、もっと計画的な主婦なら、以下の準備はできたかもしれません。

・友達とランチに行く前に、夫に夕食の準備を頼んでおく

・友達とランチに行く前に、自分で作り置きしておく

・友達とランチに行く前に、最寄り駅の近くの外食先で待ち合わせの約束をしておく

・もしもに備えて、レンジでチンするだけでおいしいレトルト食品や即席ラーメンなどを買いだめしておく

 いずれにしても、リョウさんは「罪悪感」にとらわれすぎずに、先に夕食を夫にまかせるのか、外部委託するのかを決断すべきでしたね。そのためには、自分が学生時代の友達とランチをするなら、ついつい長い時間を過ごしたくなるだろうなという予測や、それでもたまにはいいじゃないかという自己肯定感もいるのでしょう。実はこの最後の「私だってたまにはランチでゆっくりしたいんだ」「夕食を他の人が肩代わりしてくれたっていいはずだ」などの、自分を肯定する発想が最も難しいのではないでしょうか。

 リョウさんは小さい頃から、自分を大事に思うことができませんでした。学校には忘れ物ばかりするし、授業に集中できず先生に叱られていました。部屋は汚く、親から注意を受けても、それをすぐに忘れてしまい、身につきませんでした。社会人になってもケアレスミスの連続や、計画通りに仕事のできないことで評価されていませんでした。そのため、いつも「自分はだめだ。できないやつだ。だから人を怒らせてしまうんだ」と思ってきました。そんなだめな自分を大切に扱うことなどできず、いつも自己犠牲の人生でした。そんな自己肯定感の低さを知ったか知らずか、リョウさんによってくる男性にはいつも恋人や配偶者がいて、ほんとうにはリョウさんのことを大切にしてくれませんでした。いつも二番目の女に甘んじていたリョウさんだったのです。

もし逆の立場だったら

 こんな自分を大切に思えないリョウさんですから、夕食の支度を堂々と夫に頼んだり、外食やテイクアウトを提案したりすることには、大きなハードルがありました。そこで、リョウさんには、立場を入れ替えて考えてもらう方法を試してもらうことにしました。つまり、「もしも、夕食を作る担当が夫だったとして、夫が学生時代の友達とランチに行って遅くなるとしたら、リョウさんはどうするだろうか?」と考えるのです。

 リョウさんはすぐに答えました。「そりゃ、私がご飯を作るかな。そんなに遅くなった日まで夕食担当だからって無理して急いで料理しなくていいし。なんなら私と娘とふたりで食べておくし。ゆっくりしておいでーって思うな」

 リョウさん、夫には優しいですね。でもさっきまでリョウさんがしようとしていたことって、夫の立場にいるリョウさんからみると、こうなるはずです。

 「確かに夫は日頃夕食担当。明らかにいつもより遅い時間なのに、それからスーパーに材料を買いにいかせて、帰宅してから米を炊いて、料理させる。かたや、自分は娘と一緒にお留守番して家にいたのに、夕食の準備を何もしていない」

 こうして考えてみると、お留守番だけしている自分が、なんだかひどいことをしている気にすらなったのです。

 リョウ「もしかすると、私、知らず知らずのうちに不平等な考え方をしていたのかな。私の夫はそんなに意地悪じゃないはず。帰宅が遅くなった妻に何がなんでも夕食を作らせることなんて、期待しないはず」。

 そう考えると、リョウさんは急に心が軽くなりました。

 いざというときの夕食の備え、おいしいテイクアウト先の確保(コンビニの和総菜って結構おいしい!!)、家族から好評なデリバリー先の確保、定番メニューの作成も大事ですが、まずは利用する自身の気持ちが大事ですね。

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中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。