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 最近、山形県酒田市内のコンビニエンスストアに行くと、店内の現金自動出入機(ATM)前に行列ができているのをよく見かける。列に並ぶのは高齢者が多いが、「振り込め詐欺」ではなさそうだ。一体、何が起きているのか――。

 11月上旬の昼下がり、酒田市中心街にあるセブンイレブン。店内のATMの前には、スマートフォンを手にした高齢女性2人。画面にスマホをかざしたり、スマホを見直したり。その後ろには、同じようにスマホを手にした数人の高齢者がソーシャルディスタンスを保ち、順番を待っていた。

 目的はみんな同じ。電子決済サービス「PayPay(ペイペイ)」の入金(チャージ)だ。酒田市は10月から、市内の店舗でペイペイで買い物すれば、購入額の最大30%をポイント還元する事業を始めた。還元は購入から1カ月後だが、月に最大1万円分のポイントが戻る。市民以外も利用できる。

 現金をチャージしていた女性(68)は「やったことはなかったけど、3割も戻ってくるんだもの、やらない手はないでしょ」。周囲から評判を聞き、数日前から始めたばかりだというが、「やってみたらほんと、簡単だのぉ」。

 今回の事業は、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策の一環。コロナ禍で導入が推奨されるスマホやクレジットカードを使った「非接触型決済方法」の普及促進に加え、市内の消費を喚起し、売り上げが落ち込んだ小売店や飲食店の支援につなげる狙いもある。

 市は今年3月の調査データから、市内での対応店舗が多く、ほかの自治体との連携実績もあったペイペイを採用。期間は当初10月のみの予定だったが、長期実施による伝播(でんぱ)効果も狙い、12月末までに。「全国的にも珍しい」(市商工港湾課)という「30%還元、3カ月間」での実施を決めた。12月利用分の還元は翌年1月になるため、「正月明けの消費低迷期へのテコ入れも」と同課は期待する。

 反響は想定以上で、市は近く利用実態の中間集計をまとめるが、「計上した予算2億4千万円は突破する見込み」(同課)だという。市内でペイペイが利用できる店舗も8月下旬時点は517店舗(722カ所)だったが、今月1日時点で737店舗(1106カ所)に広がった。小売店や飲食店だけでなく、ガソリンスタンドや病院などの導入例もあるという。

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 今回の取材にあたって、記者(57)もペイペイを始めてみた。日頃の買い物は航空会社のマイルをためるため、ほとんどがクレジットカード払い。電子決済サービスは仕組みがよくわからないうえ、安全性が心配で敬遠してきた。

 実際に使うと、簡単だった。まずペイペイのアプリをスマホにダウンロード。設定は画面の指示通りに進め、数分程度で終わった。

 早速、近所のセブンイレブンに出かけ、ペイペイにチャージ。銀行口座やクレジットカードと連結させた自動入金ではなく、ATMでその都度入金することにした。万が一、不正引き出し被害に遭っても、被害額は自分が掌握している最小限度に抑えられるだろう、と考えたからだ。

 買い物時は、レジ周辺に置かれたQRコードをスマホでスキャン。支払金額を入力し、店員に画面を確認してもらった上で「支払う」をタッチして完了だ。店側にとってもお金の手渡しを避けられ、会計作業の効率化にもなるという。だが、入金が後日になるというデメリットはある。

 ただ、利用にはスマホが必要で、同課の担当職員も「高齢者やスマホ利用に慣れていない人には難しいかも」。消費を喚起する即効性はあるかもしれないが、機会の「公平さ」という点では課題も残りそうだ。(鵜沼照都)