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 コロナ禍の中、都市から地方への移住者が増えています。私が記者として初めて赴任したのは静岡市でした。住んでいたマンションからは富士山を望め、自転車で少し走れば安倍川が流れていました。自然豊かで暮らしやすく、「いつか移住できれば」と思っています。でも実際に移住を考えると、正直不安を感じます。地方移住にはどんな準備が必要でしょうか。地方移住コンサルタントの藻谷ゆかりさん(56)と地方移住支援サイト「SMOUT(スマウト)」を運営するIT企業部長の中島みきさん(43)にアドバイスしてもらいました。

まず目的を明確に

 藻谷さんは18年前に千葉県から長野県へ移住しました。地方移住した20人にインタビューして、「コロナ移住のすすめ 2020年代の人生設計」(毎日新聞出版)を今年9月に出版しました。「地方では豊かな生活が送れる」と実感しているそうです。

 ――藻谷さん自身はなぜ移住したのですか。

 18年前、千葉県浦安市から長野県東御市に移住しました。夫は40歳、3人の子どもたちは3歳、8歳、10歳でした。移住理由は子どもの教育。都市部では小学生の子どもに中学受験をさせる親がたくさんいますが、毎日塾に通って、帰宅は夜遅く。健全な教育ではないと考え、のびのび育てようと決めました。3人とも高校までは県内の公立校に通い、大学は東京や神奈川へ進みました。

拡大する写真・図版地方移住コンサルタントの藻谷ゆかりさん=本人提供

 ――移住を決断する上で、何が一番大切ですか。

 移住を考える際は、まず目的をはっきりさせることが大事です。私たちのように子育て目的でもいいですし、「満員電車がない場所がいい」「物価が安い町に住みたい」でもいい。明確な動機があれば、移住後に困難があっても乗り越えられるはずです。

 中には「移住先はどこがいいですか?」と聞いてくる人がいます。しかし移住するのは自分自身。どこがいいか、自ら主体的に考えて決めた方がいいでしょう。

 ――どのように自分に合った移住先を見つけ、決めていけばいいでしょうか。

 条件を設定し、場所を絞り込んでいくといいです。私たちの場合、「東京駅まで2時間以内で行けること」「湿気がなく乾燥した地域」という条件があり、最終的に東御市に決めました。長野県の雰囲気を気に入ったのも理由です。

 ――「地方は閉鎖的」と言う人もいますが。

 長野県でも、市中心部と畑が広がるような地域では雰囲気が違いますが、コミュニティーが小さい町ほど住民も移住者に対して身構えますね。何十年とそこに住んでいる人からしたら、いきなり都市から人が引っ越してくれば、「あの人は誰だ」となります。逆に言えば、相手の懐に入れば、ずっと仲良くいられるということです。

「上から目線」はNG

 ――地域に溶け込むコツはありますか。

 子どもを育てながら長く住むことや、イベントに参加して住民と信頼関係を築くこと。そのために若いうちの移住を勧めます。子どもがいれば環境への適応が早い小学生のうちがいいですし、学校に通えば親同士もつながれます。地方で起業したい人も、早いほど仕事の基盤を築きやすくなります。

 また、地方ならではの風習もあります。多くは車社会なので、私は知人の車種やナンバーを覚え、すれ違うときにあいさつできるように気をつけました。

 自治会長とも接することが多いので、移住したらまずはあいさつに行くといいですね。近所付き合いも濃くなるので、近隣の方々にタオル1枚や手土産でも持ってあいさつに行くという気遣いも。私も当初は紅茶を持ってご近所にあいさつしてまわりました。

 ――人付き合いで配慮していることはありますか。

 「人口の少ない地方に来てあげた」という上から目線な態度をとるのはだめです。当たり前ですが、地域のルールを尊重する謙虚な姿勢が大事です。当初は慣れない暮らしに驚きや予想外なこともきっとありますが、それを楽しむくらいの姿勢でいるといいですね。

収入減っても生活の質は高まる

 ――地方に移住すると収入は減りますか。

 都市と地方では物価が違います。地方では東京などの半額以下で家が買えます。都市部ほど鉄道やバスの路線が整備されておらず、大人は1人1台車が必要なため、維持費などの出費はかさみますが、収入が減ったとしても、不動産価格も生活費も安い。「生涯可処分所得」は地方の方が多くなると思います。

 また「生涯可処分時間」、つまり自由に使える時間も増えます。特に地方では通勤にかける時間がなくなり、その分家族と過ごす時間が増える。結果的にクオリティー・オブ・ライフ(生活の質)も上がるはずですよ。

    ◇

 移住支援サービスにも注目が集まっています。中島さんはIT企業カヤックの部長として、地方に来てほしい側と行きたい側を結ぶサイト「SMOUT(スマウト)」の運営を担当しています。中島さんは、地方移住成功のカギは「情報量」とみています。

移住希望の約7割は20~30代

 ――移住支援サービスの良いところは何ですか。

 スマウトでは、地方自治体が開く仕事体験や生活体験などのイベント情報のほか、地域の魅力、リフォーム物件の紹介や求人情報を掲載しています。現在全国500以上の自治体の計約2千件の情報を掲載していて、登録者はこれらを見てイベントに参加したり、地域の人々と情報交換したりすることができます。登録者は自分の経歴や「移住の本気度」などを書いたプロフィルを登録するので、それを自治体側が見て「スカウト」をすることもできます。

拡大する写真・図版地方移住支援サイト「SMOUT」を運営する中島みきさん=本人提供

 ――コロナ禍で移住希望者は増えていますか。

 約7割が20~30代の若いユーザーで、最近は40代も増えています。地方の活性化に貢献したい人など、新しい挑戦をしたいという人が多く登録しています。男女比は半々くらい。コロナ禍前の新規登録者は毎月500~700人でしたが、9月は2千人が登録しました。在宅勤務の普及で、地方でも仕事ができる人が増えていることが理由だと思います。

 ――移住に失敗しないためにはどうすればいいですか。

 地方移住に失敗するのは事前の情報収集が足りない場合が多いです。スマウトでは自治体の職員や、その地域への移住経験者ともつながれて、移住を検討する段階で生の情報を聞いて相談もできます。「お試し移住」の情報もあるので、気に入ったら実際に行ってみることもお勧めします。受け入れる側と行く側が、話し合いながら、適した移住先であるかどうかを探っていく形が理想だと思っています。(聞き手・笠原真)

地方移住を成功させる四つのコツ

①移住の目的を明確にする

②移住先の条件を決めて、現地に行って地元の人々と話し、情報を集める

③移住するなら若いうちに。子どもも適応しやすい

④地元のルールを尊重する。自治会長や隣人との付き合いは大事

*地方移住コンサルタントの藻谷ゆかりさんと地方移住支援サイトを運営する中島みきさんへの取材から

実際に移住を決断した家族は?
新型コロナの感染拡大を機に、地方移住をした人たちがいます。日々の暮らしや家族のつながりはどう変わったのか、密着しました。