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 新型コロナウイルスによる院内感染がこの春に付属病院で起きた慶応大医学部の研究チームが、ウイルスがもつ全ての遺伝情報(ゲノム)を調べ、院内での複数の感染ルートを判別できたと論文発表した。院内感染対策を効率的に進めるのに役立ちそうだという。

 慶応大病院では3月から4月にかけて、院内で主に二つのクラスター(感染者集団)が発生した。一つは都内の別の病院で感染した患者の転院など、もう一つは初期研修医らの会食などをきっかけに、それぞれ広がったと推定された。

 チームは、それぞれのクラスターの感染者から見つかったウイルスの遺伝情報を解析した。新型コロナの遺伝情報はA、U、G、Cという4種類の文字で表される約3万の「塩基」という化学物質でできていて、15日に1文字ほどのペースで塩基が別の塩基と入れかわっている。

 ウイルスのゲノムは、それぞれのクラスター内ではほぼ一致していて、同一集団であることが裏付けられた。一方、両者の間では塩基の違いが15カ所ほどで認められた。その違いから、それぞれ変異を重ねながら別のルートで伝わってきたと確認できた。

 同じころ、この二つとは別に、感染ルートのはっきりしない複数の感染者も見つかった。ゲノムを調べると、研修医らがかかったウイルスに近いものの、数カ所の塩基に違いがあった。聞き取りの結果とあわせて、これらのケースは院内ではなく、市中で感染したらしいと判断した。

 院内感染が大規模になると、医療の崩壊にもつながりかねない。チームの小崎健次郎教授(臨床遺伝学)はゲノム解析について「院内で感染者が見つかったとき、ゲノム解析を通してどのようなルートで起きたのかが正確にわかれば、どんな対策に重点を置くべきかを判断しやすくなり、院内感染の拡大防止にも役立つ」と話す。

 研究結果は、院内感染に関する専門誌の電子版に掲載(https://www.journalofhospitalinfection.com/article/S0195-6701(20)30495-3/fulltext別ウインドウで開きます)された。(編集委員・田村建二