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 酸素吸入やたんの吸引、胃ろうなど、医療的ケアの必要な重症心身障害児を対象とする茨城県那珂市の多機能型重症児デイサービス「kokoro(こころ)」で、今春から「訪問教育」が行われている。自身も難病で寝たきりの3人の子を育て、施設を運営する女性が行政と何度もやり取りし、実現にこぎつけた。

 9月14日、施設内の授業専用スペース。水戸特別支援学校の教員が中学部1年の女子(12)に絵本の読み聞かせを始めると、子どもの顔には赤みが差し、口元がほころんだ。

 施設には現在、同市や北茨城市、行方市などから1~15歳の34人が通う。訪問教育を受けているのは、小学部の2人と中学部の1人だ。訪問教育は自宅で教員と子どもが1対1で行うのが原則。教員には医療的ケアの対応ができないため、保護者が近くにいることが求められる。県によると、病院や介護施設などで行う例はあるが、デイサービス施設での実施は県内初だ。

 施設を運営する社団法人は、代表を務める紺野昌代さん(43)が2017年3月、ひたちなか市で設立した。紺野さんは、自身の子ども3人が生まれながらに原因不明の難病で寝たきりだった。小児専門の病院の看護師をしていた紺野さんは「自分の子や、同じような重症児たちの居場所をつくりたい」と、法人を立ち上げた。

 開所後すぐに、子どもたちが自宅で受けていた訪問教育を施設でも受けられないかと考えた。頭に浮かんだのは、3人がそろった時の光景だ。それぞれに教員がついた上で、同じ部屋で学べた。「互いを意識する様子は学校の教室みたいでした。そんな風に仲間と学べたらと思って」

 特別支援学校や県教育委員会に相談したところ、施設では専門スタッフがそばにいることから、医療的ケアの問題はクリアできそうだった。だがデイサービスは厚生労働省の管轄、訪問教育は文部科学省の管轄で、明確に区別するため、専用の部屋を設けることが求められた。「前例がない」こともあり、実現までに1年以上かかった。

 専用教室を備えた施設ができたのは3月。1対1の訪問教育は実現したが、授業中のスタッフの給料は施設側の負担だ。目指していた複数人で一緒に学ぶ形へのハードルはまだ高い。

 制度の拡充を待たずに取り組みを進める背景には、重症児の現状がある。開所から3年間で、自身の子ども2人を含め、利用者7人が亡くなった。「重症児にとって明日は必ず来るものではない。持ち出しでも、一緒に学ぶことの大切さや喜びが実現できるよう、少しでも前に進みたい」

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 紺野さんの次男、愛聖(まなと)君は今年5月10日に14歳で亡くなった。長女の蘭愛(れな)さんも6月13日、弟の後を追うように15歳でこの世を去った。長男の聖矢君が亡くなったのは14年2月。13歳だった。

 結婚して看護師として働いていた紺野さんが聖矢君を出産したのは00年10月。根本的な治療法のない難病で、医師からは「話すことも歩くことも難しい」と言われた。我が子が病院で一生を過ごすことが受け入れられず、自宅で育てることを選んだが、その選択は想像を絶するものだった。

 入退院を繰り返し、気の休まる時がない日々。生後9カ月の頃、見かねた義母が職場復帰を勧めてくれた。「義母が預かってくれたおかげで看病から離れられる時間ができ、気持ちに余裕が生まれました」

 04年6月に蘭愛さんが生まれた。医師からは「同じ難病となる確率は4分の1」と言われていた。06年10月に次男・愛聖君を出産。2人とも聖矢君と同じ症状だった。「宿命だと思いました。普通に家族として楽しもう。そう気持ちを切り替えたら、みんなでテーマパークや温泉旅行にも行けるようになりました」

 しかし、いつの間にか夫の気持ちは家庭から離れていた。聖矢君が亡くなって2年後の16年夏、離婚を決め、義母を頼ることができなくなった。医療的ケアが必要な重症児は一般の障害者施設では受け入れてくれない。仕事を辞めなければならず、収入がなくなる。絶望感から夜中に車で山へ行き、崖の前に止めた。

 「これで最期と思って振り返ると、愛聖が楽しそうに笑ったんです。その笑顔に救われました」

 踏みとどまった紺野さんは、以前耳にした、重症児を持つ北海道のママ友がデイサービスを立ち上げる話を思い出し、自分もやってみようと思い立った。全国重症児デイサービス・ネットワーク代表の鈴木由夫さんを紹介してもらい、4カ月で開所にこぎ着けた。

 3人の子をみとった紺野さんは「親として納得できることは一つもない」と言う。ただ、2人は自分が立ち上げた施設でみとることができたことで、仲間と学べる仕組みづくりのほかにも新たな目標ができた。重病と闘ってきた子どもたちが穏やかに最期を迎えられる子どもホスピスだ。「我が子から託された宿題のような気がします」

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 現在、事業の立ち上げに携わった鈴木さんやネットワークの有志が、3人の生きた証しとして、桜の木の植樹とモニュメントの設置を企画し、資金の寄付を呼びかけている。問い合わせは「こころ」(029・212・5569)へ。(ライター・神野泰司)

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 〈訪問教育〉 特別支援学校の担当教員が重症児の自宅や入院先の医療機関を訪れ、週3回、1回2時間程度の授業を行う。個々の障害に合わせて五感を働かせる教育プログラムを組み、自立活動を支援・指導。自宅の場合は保護者の在宅が原則。県内では今年度、111人が訪問教育を受けている。