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 今年も残り1カ月を切りました。新型コロナウイルスで生活が大きく変化した1年でしたが、年末年始はクリスマスにお正月といった「恒例行事」がありますね。気持ちよく新年を迎えるために、何の準備から始めればいいでしょうか。優先すべきことがわからない、どうすれば……。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

クリスマス、大掃除、帰省の準備……いったい何から

 年末ですね。年末って本当に忙しいですよね。大掃除や実家が遠方の方は帰省の準備、おせちの準備、その前にクリスマスの準備もあります。お歳暮の手配や年賀状などもありますね。これらに加えて、「年末までにこの仕事を仕上げよう」という仕事でたまった課題も多くあるかもしれません。今回の記事はこうした複数のタスクがあるときに、どのように優先順位をつけてこなせばいいかというテーマです。

 ここで連載しているADHDの主婦リョウさん(架空の人物)は、あれもこれもしなければならない年末には決まって体を壊してしまいます。正月には熱に浮かされて、ちっともいい思い出がないのです。かといって、リョウさんがテキパキ働き者で、多くのタスクをこなしたから体を壊したのかというとそうでもなく・・・。いったいリョウさんに何が起こっていたのでしょう?

 リョウさんは毎年娘の友達とその母親たちを家に招待して、クリスマス会を開きます。クリスマス会の準備が大好きなリョウさんは「今年はどんな料理にしよう。リースやツリーに見立てたかわいい料理がいいな」「どんな飾り付けにしよう。どうせなら生のスギやヒバでテーブル用のアレンジを作りたい」「サンタやトナカイのイラストをつまようじに刺して、食べ物に立ててもかわいいな」「大人用の料理は別に用意したいな。お酒もいるかな?」「ケーキ、今年は手作りしてみようかな?」「家に招待するなら掃除もがんばらなくちゃ」「子どもたちのためになにかみんなでできるレクリエーションも考えよう」。

 こんなふうにワクワクが止まりません。クリスマス会だけでもこれだけの準備のボリュームがあるのに、リョウさんはこの時期、大掃除も年賀状も娘のためのプレゼントの手配も帰省の準備も進めなくてはいけません。大好きなクリスマス会なのに、あまりに忙しくて、最近ではちょっと「プレッシャー」を感じています。

 リョウさんは、親友のアヤさんとランチをしながら、こう愚痴をこぼしました。

 リョウ「私、年末ってほんとにしんどいんだよね。毎年楽しいことだらけのはずなのに、すぐ体調を崩すんだよね」。

 アヤ「私もけっこう年末は忙しいわー」。

 リョウ「ほんと、クリスマスもお正月も両方祝うって風習なかなかきっついよね」。

 アヤ「まあ、リョウはクリスマスはりきりすぎなのもあるんだろうけど。たまには手を抜いたらいいじゃん。毎年体調崩すっていうのはちょっときついんじゃない?」。

 リョウ「えー。でもやだなあ。クリスマス好きなんだよね」。

 アヤ「どっかで優先順位つけないと、時間は有限だよー。たとえばさ、大掃除をもうプロのお掃除サービスに任せちゃうとか。年賀状もやめちゃうとか?」。

 リョウ「えー。プロのお掃除なんて、専業主婦してるのに、頼めないよー。なんかそれだけは許されない気がしちゃう……。年賀状もね。やめどきがわからないよね。アヤはちなみにクリスマスどうするの?」。

 アヤ「うちはケーキとオードブル買ってきて祝うよ。ほら、平日だからそんな凝ったことできないでしょ」。

 リョウ「そうか……」。

 リョウさんは頭ではわかっています。年末のやることを減らせば、もっと楽なのです。でもアヤさんのような買ってきたオードブルとケーキのクリスマスなんてなんのときめきもないのです。なんだかテンションが下がってしまいます。かといって、そのクリスマスのわくわくのためにお掃除や年賀状を外注するなんて、そんな家計の余裕はありません。困ってしまいました。

 私たちもプライベートでも仕事でも、自分が重視したいこと、好きなこと、興味のあることにもっと時間をかけたいのに、実際には他のやるべきことに追われてなかなかかなわないことを経験しませんか? 

 24時間すべて自分のために使うことのできるぜいたくな状況の人でさえ、「ああーーどうして寝ないといけないんだろう?食事の時間も惜しい!」とおっしゃいます。

意欲を保つ時間の使い方とは

 私たちにはやっぱり時間が足りないのでしょう。集中できる気力や体力も必要ですから、好きなことに好きなだけ時間を使える人っていないのかもしれません。つまり、時間はいうまでもなく、「有限」なのです。

 さて、有限な時間を有効に使うためには、やはりどこかで優先順位づけが必要になります。ADHDのリョウさんに対してみなさんは「クリスマス会にはりきりすぎている」「そこに熱中するのはバランスが悪い」とお感じになったかもしれません。

 たしかに客観的にはそうでしょう。でも仮にリョウさんからクリスマスを取り上げてしまったら(簡素に開催することになってしまったら)、リョウさんはときめかず、他のことに対しても意欲を失ってしまうかもしれません。

 ここが人間の面白いところです。多少無理してでも、ある程度自分らしいときめきを大事にして、意欲を保つことも必要なのです。

 「クリスマスを思い切り楽しむために、他のタスクを省略しよう」

 このやり方がベストです。つまり、リョウさんにとっての大事なクリスマス会は、思い切り楽しんでいいいのです。

 たとえば、

・大掃除を夏にする

・年賀状を今年は出さない

・帰省の手配は夫に任せる

こんなふうに調整するのです。

 別に意外性のない解決策だったかもしれませんね。でもこれが職場だと、多くの上司は「そんな大事でない仕事に時間をかけすぎるな」「どうして普通のやり方でしようとしないんだ」と画一的な仕事のゴールややり方をリョウさんに要請すると思うのです。それで自分を否定された気持ちになって、モチベーションを下げてしまう従業員は多くいます。もちろん、こうした個人の好みが全て許容されるほど、仕事は甘くないでしょう。一定の時間内に一定の成果を出すことが求められますから、リョウさんがあまりに見当違いな方向にエネルギーを注いでいて、成果物が出ていないのなら問題です。

 ただ、ちょっとだけでもその個人の好み、やり方を色付けられる余裕があれば、うんと部下のマネジメントは楽になります。

 次週以降もお楽しみに。

 ◇「年末・年始企画第1弾」

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中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。