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 スマホの位置情報などのビッグデータを、日本銀行が経済分析に本格活用し始めた。短観や家計調査など伝統的な統計と比べ、数値の更新が早く変化をつかみやすい利点があるためだ。

 使っているのは、スマホの位置情報▽クレジットカードの決済情報▽レストラン予約サービス「テーブルチェック」の情報など。繁華街の夜間人口の増減や飲食店の来店者数の変化など、従来の統計だとつかみにくかった動きがタイムリーにわかる。日銀はこうしたデータの分析を、10月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で公表した。

 例えば、交通、娯楽、外食などサービス消費の支出額は、グーグルがスマホの位置情報から集めた「小売り、娯楽」施設への訪問者数の推移に似ているという。日銀の分析担当者が試行錯誤で得た「発見」だ。

 そこで、この発見を直近の消費の把握に生かした。サービス支出額を調べる代表格は毎月の総務省「家計調査」だが、リポートの公表時点で参照できたのは8月分まで。グーグルの数値は週次で10月23日分まであり直近までわかった。データを裏付けに「サービスへの支出は回復傾向が続きそう」との見通しを示せた。

 個人消費の4割近くは65歳以上の高齢世帯が占める一方で、感染の重症化リスクが相対的に高いとされる世代。このため、感染者が増えると移動や対人接触を伴う支出を抑える傾向があるという。外食など対面型サービスは、こうした高齢層の傾向が今後の抑制要因になるとの見方も示した。

 日銀はこれまでもネットの検索語やPOS(販売時点情報管理)データを物価分析などに生かしてきた。コロナ禍を機に、位置情報など人流データの分析に力を入れている。月次の家計調査や四半期の日銀短観など、伝統的な官庁統計に比べ、頻繁に更新される「高頻度データ」は短期の変化をつかみやすい。

 亀田制作・調査統計局長は「緊急事態宣言の前後やお盆など、この半年ほどで人出の動きは局面が4~5回変わった。毎月や四半期の指標だけでは足もとの変化をつかめない。コロナで企業からの提供データも増えて利用が進んだ」と話す。

 データ活用には課題もある。一つは、数値の持つ傾向や「くせ」がまだはっきりしないこと。例えばスマホの保有率や、位置情報取得を許可する利用者層は年代や所得、地域で違うかもしれない。グーグルなどは利用者ごとに広告を出し分ける「ターゲット広告」を収益源としている。民間企業のデータは公表形式が急に変わる可能性もある。

 夏と冬の消費の差など、時期の違いを差し引く「季節調整」に必要な蓄積も足りない。例えはグーグルの人出情報は昨年以前のデータがなく比較対象が限られる。亀田局長は「背景となる経済活動と結びつけないと、経済判断に意味のあるデータにはならない。他の統計と結びつける手間が必要で、この部分は機械ではなくエコノミストの腕の見せどころだ」と話す。

 「コロナ後」に向けたデータ活用の研究も始まっている。災害時に、被災地の工場周辺の人出データの動きから、製品の供給網への影響などを推測するといった使い方だ。亀田氏は「日本経済は様々なショックを経験してきたが、そのたびに足もとの経済情勢の把握が重要になる。高頻度データの蓄積が進めば、活用の幅が広がることは間違いない」と話す。(渡辺淳基