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 生みの親と暮らせない子どもを引き取り、成長を支える「里親」。その広がりは自治体によって差があり、愛媛県内の里親委託率は全国平均を下回る。家族の形が多様化する中、養育里親とは別の新生児委託にも取り組みながら、関係者が模索を続けている。

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 松山市の住宅街にある一軒家に、小学生の男の子の元気な声が響く。夫妻と女子高校生との4人暮らし。一つ屋根の下で一緒に暮らすが、小学生と高校生は夫妻の実の子どもではない。それぞれ別の制度で夫妻と結ばれ、家にやって来た。

 10年に及ぶ不妊治療の末、夫妻は10年前、「里親」に登録した。3年後、生後間もない男の子を引き取り、特別養子縁組をして戸籍上の実子とした。それが今の小学生。高校生は1年半前、施設から受け入れた。

 特別養子縁組では親権は実親から養親に移る。特別養子縁組の中でも、この小学生のように出生後すぐに養親が引き取る「新生児委託」は、子どもの信頼感や安心感を育む上で利点が大きいとされる。一方、高校生のような養育里親制度の場合、親権は実親にある。両制度をめぐる県内の状況は、大きく異なる。

 里親や、数人の子どもを育てる「ファミリーホーム」への18歳未満の子どもの「里親等委託率」は2018年度末で18・1%。全国平均の20・5%を下回る。国は2年前、「7年以内に就学前の子どもの75%以上」という目標を掲げたが、県の計画では、未就学児の委託率が7割を超えるのは29年度だ。

 県の担当者は、県内で里親への委託が広がりにくい理由の一つに、施設が多いことをあげる。戦後、篤志家らが多くの孤児院を設け、今も県内には26カ所の乳児院や児童養護施設などがある。施設養育が中心だったことから、里親委託が進みにくかったとみる。

 また、思春期を迎えた子どもへの接し方が難しいこともあり、受け入れをためらう里親は多いという。さらに、実親が「親権を奪われるのでは」と心配し、施設にいる実子が里親に引き取られることを拒否する事例も多く、委託率を上げるには「こうした誤解を解くことも必要」という。ただ、職員数は限られているうえ、「虐待など施設に保護する必要のある子どもへの対応に追われ、里親制度への対応は優先しにくい」のが実情だ。

 一方、新生児委託への取り組みは周辺の県より進んでいる。13年度に初めて3人の子を引き渡して以来、19年度までに22人を引き取ってもらった。新生児委託の希望者は多く、これまでに引き取り手が見つからなかった例はないという。

 新生児委託では、幼いうちから実子ではないことを子どもに伝える「真実告知」が必要。そのタイミングや方法についても、県などが養親に助言している。

 2人の子と暮らす夫妻は、それぞれと異なる関係を築いている。特別養子縁組の息子との接し方は、実の親子とほとんど変わらない。真実告知も、少しずつ始めている。

 高校生になってやって来た女の子とは、家事を促したりしながらも、互いに自然でいられる距離を保つ。一定の年齢になれば、里親としての養育は終わる。「お母さん、と呼ばせたりはしない。でも、施設の子だという特別な目は向けない」。小学生と高校生の少し距離のある関係も、静かに見守っている。

 「18歳になるまでの最後の1、2年を、施設ではなく家庭で過ごすだけで、その子のその後の人生は大きく違ってくる」と県の担当者。里親制度について、妻(54)は「里親のためではなく、子どものための制度。もっと受け入れる里親が増えれば」と話す。

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 松山市の松山赤十字病院は、県と連携し、これまで約半数の新生児委託に携わってきた。2015年から医師や助産師らがチームを組み、生みの親と育ての親の双方を手厚く支援している。「揺れ動く気持ちに寄り添うことが大事」。療養支援ナースの長尾敏江さん(62)は強調する。

 新生児委託は、女性が妊娠後、子どもを育てられないと相談するところから始まる。病院から連絡を受けた児童相談所が条件のあう里親登録者に、特別養子縁組を前提に生後間もない赤ちゃんを引き渡す。この間、実親への配慮やケアと、高齢で子育て経験のない場合が多い養親への支援の両方が必要になる。

 同病院では、子どもを育てられないという女性に対して、どうしたら嫌な記憶が残らない出産になるかなど、受診の段階から話し合いを重ねるという。

 実親が出産して退院すると、入れ違いで養親が赤ちゃんと同じ病室に入院。約5日間、助産師からオムツの替え方や入浴の方法などの指導を受けながら、退院まで赤ちゃんとともに過ごす。病室で育児を経験し、子育てにスムーズに慣れてもらう狙いだ。病院に通って育児を学ぶよりも負担は少なく、支援の手がある場所で夜を一緒に過ごせることも心強い。

 また、院内で子どもの名前をアナウンスする際、特別養子縁組が成立する前でも養親の名字で呼ぶなど、養親の心情に配慮する。(足立菜摘)

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