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 徳島県阿南市出身の作家・北條民雄(1914~37)の命日に当たる5日、徳島市内で「民雄忌~北條民雄を偲(しの)ぶ会」が開かれ、遺族らが参加した。ウェブ会議システムによるトークセッションや、死後に発表された作品の朗読があり、参加者は、いまこそ求められる北條の作品の魅力について語り合った。

 民雄忌は昨年、徳島文学協会と阿南市の共催で地元で初めて開かれた。2回目となる今年は新型コロナウイルスの影響で中止も検討されたが、徳島文学協会が参加人数を30人に制限して開いた。

 ウェブ会議システム「Zoom」を使ったトークセッションには、北條の生涯を描いた作家で評論家の高山文彦さんや、芥川賞作家の吉村萬壱さんが加わり、当時は不治の病だったハンセン病を患うなかで執筆を続け、23歳で亡くなった北條作品の魅力を語った。

 11月下旬には北條の代表作で他の随筆なども収録した文庫本「いのちの初夜」が角川文庫から半世紀ぶりに復刊されたばかり。入社前に読んで衝撃を受けたという編集部の担当者山本渉さん(26)もセッションに加わった。

 山本さんは復刊の経緯について「社内でも北條を好きな編集者は多く、コロナ禍で読んで欲しい一冊としてあってもいいという話があった。『病』や『命』について考える機会として平穏な時世よりも興味を持ってもらえると思った」と舞台裏を披露した。

 その後、文庫本の最後に収録された作品「吹雪の産声」の抜粋を、徳島市在住でフリーアナウンサーのなかむらあゆみさんが朗読した。「吹雪の産声」は「温暖な四国に生まれた私」の主人公が同じハンセン病を患う友を看病する設定で、北條が師事した川端康成が当初の「嵐を継ぐもの」というタイトルを改題し、北條の死後に発表した。

 吹雪が荒れる夜のハンセン病療養所で、死期が近づく友は、近くの産室から聞こえるお産を迎える女と新しい命、病苦での自殺衝動に悩まされた主人公を気にかけ「よかったよ。君にもみんなが見えるようになったんだから。そのうえに、生まれて来るんだよ。次々に生まれて来るんだよ。僕は初めて歴史を知ったんだよ」と伝える。死を語る作品が多いなか「生」を対置した異色作でもある。

 朗読後、なかむらさんは「一つの言葉も伝え漏らさないよう汗だくになって読みました。命日に自分の作品が故郷で読み継がれることを、北條さんもうれしいと思ってくれていると信じたいです」と話した。

 司会を務めた徳島文学協会の佐々木義登会長は「今後も地元から顕彰活動を続け、来年も『偲ぶ会』を開きたい」と語った。(雨宮徹)