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 新型コロナウイルス禍でリストラや巣ごもり需要が増えるなか、「自由な時間に収入を補える」と、飲食宅配代行サービスの配達員として働く人が増えています。働き手のために「最低報酬保証」を掲げる新規参入企業も相次いでいますが、配達員は歓迎一色でもない様子。個人事業主の働きやすさとは何か。海外の例も踏まえ、探りました。

拡大する写真・図版住まいのある埼玉を拠点に、全国を旅しながら、ウーバーイーツとウォルトの配達員として日替わりで働くブロガーの片野広太さん=さいたま市、藤えりか撮影

働き手から見た飲食宅配代行サービスの現状を、藤えりか記者がポッドキャストで解説。記事の末尾では、11日(金)に開催予定の無料オンライン記者サロン「フード宅配員の働き方」の参加者も募集しています。

スワイプ一つ、旅先で「配達員」に

 さいたま市の片野広太さん(30)は8月、旅先の札幌でスマートフォンのアプリを開き、現在地の地図が示された画面をスワイプして「稼働中」に切り替えた。今年、日本に上陸したフィンランド発の「ウォルト」の配達員として働くためだ。この日は同社の「最低報酬保証」を初めて利用。バイクにまたがった。

 ウォルトがサービスを始めたばかりとあってか、結局、3時間15分の間に受けた配達依頼はファストフード店やイタリア料理店などの4件のみ。配達報酬は2100円と、事前に保証された金額3088円を下回ったため、差額を補塡(ほてん)の上で入金された。

 11月、取材で会った片野さんに、配達員用アプリを開いて最低報酬保証の時間予約の画面を見せてもらった。東京は平日1時間1150円と、国の最低賃金を上回る額。画面上の予約枠は、みるみる「空きがありません」に変わった。「速攻でなくなりますね」と片野さんは笑った。

拡大する写真・図版ウォルトの配達員用アプリに表示される「最低報酬保証」の時間予約の画面。予約が始まると、みるみる空きがなくなっていく

 飲食宅配代行サービスは、日本では2016年に米国から参入したウーバーイーツなどが先行している。ただ、米市場調査会社NPDグループによると、日本の外食市場に占める宅配の割合は昨年で3・1%と、世界的に見れば低い。

 そこへウォルトが今年3月、広島を手始めに日本に上陸。4月にはmenu、6月には中国系のDiDiフードが大阪で、8月には国内ベンチャーのチョンピーが東京・渋谷で、それぞれサービスを始めた。さらに、9月にはドイツ系のフードパンダが神戸・名古屋・横浜で、12月には韓国系のフードネコが東京で本格開始するなど、外資や国内勢の参入が相次いでいる。

拡大する写真・図版東京・渋谷で8月から本格的にサービスを始めた飲食宅配代行「チョンピー」は、配達員の待機報酬や、条件を満たせば最低報酬も出しているのが特徴だ=運営会社シン提供

競い合う待遇改善策

 各社は、競うように配達員の待遇改善策を打ち出している。中でも際立つのが最低報酬保証だ。個人事業主である配達員は、労働基準法の保護対象にならず、最低賃金が保証されていない。たとえばウーバーイーツでは、配達依頼が生じなければ原則として報酬はゼロだ。

 ウォルトのほかにも、フードパンダは「配達員がより多く稼げるまでの間」としつつも、一定数の配達員に1時間1千円の最低報酬を出す仕組みを設けた。チョンピーは、条件を満たした一定数の配達員に現時点で1時間1千~1500円の最低報酬を出すほか、店舗到着後に料理を受け取るまでなどの間に待ち時間が生じた場合、待機報酬として最初の5分に75円、以降は1分ごとに15円を出している。

拡大する写真・図版9月に日本に上陸したフードパンダは「より稼げるようになるまでの間」として、配達員に最大2時間で1時間1千円の最低報酬を出している=デリバリーヒーロージャパン提供

 ただ、最低報酬保証は、全ての配達員にとってバラ色の仕組みというわけでもないようだ。片野さんは「いい制度だとは思うけど、自分はあまり使わない。その時間は、ずっと稼働し続けなきゃいけない制約が出てきますから」と言う。

 片野さんはもともと、大学院で情報工学の修士号を取った後、正社員のエンジニアとして働いていた。しかし、「旅もしながら自由に働きたい」と昨年秋に辞め、副業でやっていたウーバーイーツの配達員として本格稼働した。

使わない報酬保証「拘束されたくない」

 「収入は以前の6~7割になったけど、好きな時に仕事ができるのがいい」。自宅のあるさいたま市を拠点に、時には全国を旅しながら、個人事業主の配達員としての働き方などをブログやユーチューブで発信している。そんななか、旅先の仙台でこの夏、サービスを始めたウォルトの配達員も兼ねるようになった。

 「ウーバーイーツでは普段、配達依頼が多い時間帯を狙い、依頼がなくなったらすぐ帰る感じでやっている。拘束されたくないんですよ」

拡大する写真・図版住まいのある埼玉を拠点に、全国を旅しながら、ウーバーイーツとウォルトの配達員として日替わりで稼働するブロガーの片野広太さん=さいたま市、藤えりか撮影

 こうした声は他の配達員にも目立つ。放送大学で社会福祉を学びながらウーバーイーツの配達員として働く仙台市の佐藤健さん(28)は今夏、ウォルトにも登録した。最低報酬保証も利用してみたが、「確実にお金は入るけど、これがいいとも言えない」と感じている。「正直、ぱっと始めて、ぱっとやめられる働き方がいいですね」

 ウォルトのマリアンネ・ビックラ副社長(28)も、朝日新聞の取材に「(最低報酬保証は働き方の)柔軟さが減るから、必ずしもみんなが望んでいない」と語っている。ウーバーイーツの配達員で作る労働組合「ウーバーイーツユニオン」も、雇われる形の労働者になると拘束も生じることなどから「労働基準法上の労働者としての待遇は求めない」(土屋俊明・執行委員長)との立場だ。

自由より待遇改善を求める人も

 ただし、「自由な働き方を守ってほしいという声が全てでもない」(ウーバーイーツユニオンを支援する川上資人弁護士)のも現実だ。

 日本以上に飲食宅配代行が浸透している英国などでは、個人事業主の配達員や宅配運転手として生計を立て、家族も養う人も増えている。新型コロナ禍などで多くの人の仕事や収入が減る中、ますます頼みの収入源となっている。自由かどうか以上に待遇改善が重要だという人たちも少なくない。

 そんな中、今年夏、欧州で展開する飲食宅配代行サービス「ジャストイート・テイクアウェードットコム」の創業者で最高経営責任者(CEO)が「配達員を個人事業主とするのをやめて雇用モデルとする」と発言して注目を集めた。

「出前大国」の韓国、画期的な労働協約

 韓国で10月、個人事業主である飲食宅配代行サービスの配達員にとって、世界的にも画期的な一歩がしるされた。「配達の民族」ブランドで展開する最大手のウーワ・ブラザーズや、ドイツ系のデリバリーヒーローコリアなどのプラットフォーム企業が、配達員でつくる労働組合と労働協約を結んだのだ。

 韓国の労働事情に詳しい労働政策研究・研修機構の呉学殊・統括研究員によると、配達員の労組が昨年申し入れた団体交渉を会社側が受け入れた結果だという。

 さらにウーワ・ブラザーズは、配達員から徴収してきた仲介手数料の免除や、健康診断の費用10万ウォン(約9600円)の補助、長期継続の配達員向けに夏と冬に各10万ウォン相当のギフト支給や、実費で100万ウォン以内の休暇支援費の支給などでも個別に労組と合意した。「会社は、労組の交渉要求を正当な理由なく拒否できない」なども盛り込んでいる。最低報酬保証などはしない一方、その他の面で厚遇した形だ。

 米市場調査会社NPDグループによると、韓国は、外食市場に占める宅配の割合が1割以上と世界的にもトップクラスに高い「出前大国」。世界最古の出前は韓国との説もあるほどで、大ヒットドラマ「愛の不時着」でもジャージャー麺などの出前をする青年が「最低賃金よりも多くもらえる」と話したり、北朝鮮の軍人が、ソウルでフライドチキンのバイク宅配をしたりする場面が出てくる。

「納得できる着地点、探れるはず」

 コロナ禍で「需要が爆発的に増え、それに応えるためにも、とにかく安定的に働いてもらえる配達員が必要との状況が生まれた」と呉氏は言う。労組弾圧の歴史も長かった韓国だが、革新系の文在寅(ムンジェイン)政権下で、労働者の権利保護や働き方改革が掲げられたことも後押ししたという。

 ウーワ・ブラザーズは、日本では12月8日から「フードネコ」ブランドで飲食宅配代行サービスを本格開始した。代表執行役員の津毛(つもう)一仁マーケティング統括本部長(47)は、「(もし団交申し入れなどがあれば)きちんと対応したい」と朝日新聞の取材に語った。ウォルトのビックラ副社長も「あらゆる立場の配達員との対話や議論を受け入れる」、フードパンダの日本の運営法人のエリック・ウェイCEO(42)も「前向きに対応する」と話した。

 呉氏は言う。「雇用労働者と同様の権利を認めるかどうかの『オール・オア・ナッシング』ではなく、今回の韓国での労働協約のように、それぞれが納得できる着地点を交渉を通じて探れるのではないか」(藤えりか

主な飲食宅配代行サービスの配達員の待遇

〈ウーバーイーツ〉

【最低報酬】なし 【事故補償】あり

〈ウォルト〉

【最低報酬】1150円(東京・平日) 【事故補償】あり

〈menu〉

【最低報酬】なし 【事故補償】あり

〈DiDiフード〉

【最低報酬】なし 【事故補償】あり

〈チョンピー〉

【最低報酬】条件つきで1千~1500円(10日時点) 【事故補償】あり

〈フードパンダ〉

【最低報酬】当面1千円 【事故補償】検討中

〈フードネコ〉

【最低報酬】検討中 【事故補償】あり

〈出前館〉

【最低報酬】検討中 【事故補償】あり

※最低報酬保証の金額は1時間あたり。各社への取材に基づく

11日に無料オンライン記者サロン「フード配達員の働き方」

拡大する写真・図版告知バナー「ウーバーだけじゃない~フード配達員の働き方」

 街角で様々な飲食宅配のバッグを背負う人の姿をよく見かけるようになったと思いませんか。

 新型コロナウイルスの感染再拡大に緊張が高まり、外出自粛を改めて強いられる中、自宅にいながら飲食店の注文できる飲食宅配代行サービス業界が活況です。先行する米国系大手ウーバーイーツなどに続き、フィンランド発のウォルト、ドイツ系のフードパンダ、韓国系のフードネコ、日本発のベンチャー、チョンピーなど新規参入が相次ぎ、利用者も増えています。

 同時に、その配達員として働く人も増えています。雇用関係にない個人事業主として、好きな時間に働ける自由さに人気が集まる一方、労働法制に保護されないという問題も指摘されています。コロナの影響で収入が減ったりなくなったりして配達員になった人たちを含め、切実です。

 便利さの向こうにある働き方は、どうあるべきか。そうした問題を考えようと、朝日新聞は12月11日(金)午後4時から、オンライン記者サロン「ウーバーだけじゃない~フード配達員の働き方」を開催します。

 来日中のウォルトのマリアンネ・ビックラ副社長(28)や、正社員を辞めてウーバーイーツとウォルトの配達員として働くブロガーの片野広太さん(30)をイベントの中でゲストとして順次迎えつつ、この世界を取材する経済部の藤えりか記者が現状を報告しながら考えます。

 ビックラ副社長のお話は日本会議通訳者協会認定会員の今井美穂子さんに通訳いただきます。

 参加無料。申し込みは11日午後5時まで、専用サイト(https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11003150別ウインドウで開きます)で。