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 電話もインターネットも使わず、手紙でしか予約できない宿があるらしい。なぜ今もまだ、と気になった記者が泊まってみた。

 岩手県沿岸部の野田村。人口4千人ほどの村にある築160年以上の「苫屋(とまや)」が今回の宿だ。夕朝食付きで1泊6千円。どんな人が経営しているのだろう。

 オーナーは坂本充さん(61)と久美子さん(62)夫妻。1980年代のロンドンで出会い、2人で世界中をめぐった。帰国してからは、トラックを改造したキャンピングカーで愛犬と日本中を走り抜け、たどり着いたのが野田村だった。

 人生で携帯電話を持ったことがないという充さんは「それで生きてこられたから。じゃあこれからも必要ないと思って」。久美子さんも「手紙は自分のタイミングで読み、返事も書ける。それで十分」と話す。

 2人は苫屋からの収入のみで生活している。客がいない時などは、宿から1キロほど離れた自宅で過ごす。電話やネット、テレビがないのは自宅も変わらず、世間の出来事は専らラジオから知るという。

 不便なことはないのか。ランチに来た常連客で、隣の久慈市に住む久慈公夫さん(42)が「電話がならないので諦めがつく。ばあちゃん家に来たみたいにのんびりできる」と逆にメリットを教えてくれた。

 十数年前まで、宿の一帯は携帯の電波が入らなかったが、最近は、通信大手2社がつながるように。「常連の間で『電波妨害して環境を守ろう』なんて話も出た」と久慈さんは笑う。

 1日最大3組を受け入れる苫屋では、年間延べ300~400組が訪れていた。だが、新型コロナウイルス禍の影響で、ランチ客はほぼおらず、宿泊客は200組弱の見込みだ。「Go To キャンペーン」にも参加していない。

 入り口の消毒液以外は、以前と何も変わらない苫屋。「囲炉裏をかこむ時点で、人と人との距離が取れてるから」と久美子さん。4月に一時休業した際は、常連客と文通して過ごしたといい、「コロナのお陰でできたことでもあるから」と前向きに捉えている。(盛岡総局・御船紗子)

 囲炉裏を囲む時にできる自然な距離、自給自足に近い暮らしの強さ――。「苫屋」の営みを手がかりに、withコロナ、そしてアフターコロナの時代の生き方を探るオンラインイベントを、12月17日(木)午後7時半から開きます。参加無料。申し込みは専用サイト(https://tomaya2020.peatix.com/)から。