[PR]

 群馬県民会館(ベイシア文化ホール)は、東京の最高裁判所や警視庁も手がけた日本を代表する建築家の一人、岡田新一が設計した。存廃を含めた議論がかまびすしい中、建築家で前橋工科大工学部准教授(建築意匠)の石黒由紀さん(52)とともに、名建築を探訪した。

 左に県立図書館、右に前橋商工会議所を見ながら道を進むと、巨大な壁面が出迎える。県民会館の白い壁は、青い空によく映える。県民会館は、郊外に移転した群馬大学の跡地に1971年竣工(しゅんこう)。完成当初は今よりも白く、県民から「白亜の殿堂」と言われていたという。ちなみに県立図書館も、岡田の設計だ。

 この大きな壁、「街並みの軸を受け止める意味が込められているのでは」と石黒さん。仕事や学校などでせわしない「日常」と、ゆったりと歌舞音曲を満喫できる「非日常」との壁、との見立てだ。建物の高さは約25メートル。壁は、その下に小さくしつらえられたエントランスとの対比により、近づくほどに大きく感じられる。

 会議室がある4、5階部分は「塊」がせり出している。「ヨーロッパの城壁の門をくぐる感覚ですね」。県民会館を掲載した雑誌「新建築」1972年1月号では、専門家が「ピラミッドの羨道(せんどう)(玄室と外部を結ぶ通路)を抜けるときのものに近い」と評していた。

 簡単に言えば、入館するまでの高揚感を演出する壁、ということか。

 ロビーに入ると、会館東側にある公園の緑が大きなガラス越しに目に入る。石黒さんは「正面とは対照的に、こちらは住宅街や公園と緩やかにつながっている印象を与える。見る場所によって雰囲気を変えているところも岡田が工夫した点でしょう」。東側に面した部分には、かつてツタのプランターが配置され、緑が連続するような外観を保っていたという。

 大ホールのホワイエ。石黒さんは「特徴的なこの柱をよく見ておいて下さい」。12角形の柱はコンクリート面だが、なぜか木目や枝の節跡が浮かんでいる。

 「無機質なコンクリートにアクセントを与えるため、型枠に無垢(むく)の木板を使い凸凹をつけてあるんです」。12面は角をあえてきちょうめんにずらしている。光が当たると影が出ることを計算していたからだという。

 さらに2階では、柱が床からにょっきりと出てきたような感じだ。「柱を使って階下を意識させるための工夫です」と解説してくれた。

 石黒さんは「場所ごとのスケール感とディテールが秀逸。機能的側面と、社会的な威厳や品格に対する律義さが感じられます」と建築としての意義を語る。

 「ヒューマンスケールを超えがちな都市に対して、普遍的な人間性への深い信頼に基づいた建築の空間デザインへとつながっている。東京大で学んだ建築計画学と、米国留学で得た都市デザインの考え方の影響がドライに共存した成果。最高裁判所や警視庁本部に続く、高度成長期の日本社会における初期の代表作です」(寺沢尚晃)

     ◇

 建築家・岡田新一(1928~2014) 東京大、米エール大大学院で建築を学ぶ。建設会社を経て1969年に独立。最高裁判所庁舎など風格ある作風で知られ、警視庁本部庁舎、岡山県立美術館、宮崎県立美術館などを手がけた。2004年日本芸術院会員。

関連ニュース