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 静岡県藤枝市立総合病院の1階ロビーに一枚の看板が掲げられている。「がんばれ 榛原総合病院、静岡済生会病院、順天堂静岡病院、遠州病院」。新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した県内の病院名を挙げ、連帯を呼びかける看板だ。

 看板は今月3日に掲げられた。同じ医療圏にある榛原総合病院で患者1人にコロナウイルス感染が確認されたと発表があった翌日。病院職員や看護師から「何か励ましのメッセージを出そう」と提案が相次ぎ、すぐに設置した。製作には、やはりクラスターが発生した静岡済生会総合病院を励ますために静岡市立静岡病院が設置した看板も参考にした。

 看護部長の達家好美さん(56)は看板を写真に撮って、LINEで榛原総合病院の看護部長に送った。同病院の医事課長からは「みんなで写真を見ました。ありがとうございました」と電話があった。

 藤枝市立総合病院の看護師は約600人。医療従事者として自分から感染を広げてはならないと、この1年間、ずっと自粛と節制を続けてきた。新型コロナ患者の受け入れに備え、組織も配置も変わった。「いつもじゃない仕組みの中で、いつもみない患者をみている。緊張の中にいるからこそ、ポッと優しい言葉をかけられるとうれしい」と達家さん。

 症状のない感染者が外来を受診したり、救急搬送されてきたりする可能性もある。医療現場は感染リスクと隣り合わせだ。春先、達家さんは感染症担当の看護師から「どうして私なんですか」と聞かれるのがきつかった。今は担当以外からも「(この緊張が)いつまで続くんですか」と聞かれるのが一番つらいという。

 県内でも感染拡大が続く。9日には富士市立病院の職員の感染が判明。10日には静岡徳洲会病院でクラスターが発生した。医療機関でも感染が広がる中、最前線で懸命に治療にあたる医療従事者やその家族に、誹謗(ひぼう)中傷や差別が向けられることもある。

 看板には「がんばれ わたしたち」の言葉も。叱咤(しった)激励ではなく、自分たちが前を向くために書いた。(阿久沢悦子)

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 静岡市でも新型コロナによる差別や風評被害に負けてなるものかと、支援の輪が広がっている。市立静岡病院は「今こそ励まし合おう」と書かれた応援メッセージを入り口付近に掲げている。

 同市内でもクラスター(感染者集団)のうち名称を公表した医療機関や事業者が、批判されたり、差別的な扱いを受けたりする例が先月ごろから増えているという。

 市立静岡病院でも春先に感染者が出て、職員らがタクシーに乗車拒否されたり、保育園での子どもの預かりを断られたりするなどの事例が市に報告されている。同院は「だれでも感染の危機にある。だからこそ思いやりの気持ちを持ってほしい」と呼びかける。

 市も誹謗(ひぼう)中傷対策として「いのちを大切に くらしも大切に」と刻んだバッジを作成した。市内の小中高の児童・生徒用に7万個を配布する予定だ。

 企業も援助の手を差し伸べる。医療廃棄物処理業の丸徳グループ(同市清水区)と他の2社は、名前を公表した市内の病院に勤務する職員1200人に弁当を無料配送する。内田貴典代表は「医療に関係する一人として、気持ちよく仕事をしてもらえたら」と話す。(中村純)

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