【動画】コロナ禍で苦境に立つ移民、難民の生活は経済的な厳しさを増している
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 世界で猛威を振るう新型コロナウイルスは、紛争、飢餓、気候危機、経済破綻(はたん)など様々な理由で越境した移民や難民を、さらに苦しい立場に追い込んでいる。イタリアの農場で低賃金で長時間働くインド人の移民労働者と、中東の紛争地からオーストラリアに逃れた親子を訪ねると、政府や自治体のサポートを得られず、絶望を深めていた。

拡大する写真・図版伊中部サバウディアの農場で働くインド人移民労働者が暮らす集合住宅=10月22日、河原田慎一撮影

3年間で10人以上が命を落とした

 イタリア中部ラティーナ県の地中海に面した町サバウディアの外れに、白壁の2階建て集合住宅が並ぶ一角がある。1980年代まではイタリア人が夏のバカンスを過ごす別荘だったが、今はインド人の移民労働者が暮らす。同県はトマトやズッキーニなどの栽培が盛んで、移民労働者の多くは大規模農場で働いている。

 集合住宅からはカレーのスパイスの香りが漂う。農場で働く4人のインド人移民労働者が暮らす1室に案内された。キッチン付きの居間は20平方メートルほどで、明かりは裸電球一つだけ。そこにベッド3台が並べられていた。もう1台のベッドは屋根裏部屋にあった。

 4人のうちの1人、カセディトさん(42)は4年前、インド北部パンジャブ州から単身で来た。「一日中、野菜の収穫で背中と腰が痛い。家族に会いたい」と嘆く。右目は黄色く濁っているが、農場主の許しがないため、医療施設に行けないという。

 ローマの民間調査機関の研究員で、社会学者のマルコ・オミッツォロさん(45)は、現地で移民労働者の実態調査を続けている。オミッツォロさんによると、多くの移民労働者が契約書のない違法労働状態で、ラティーナ県の農業労働者の最低賃金である時給9ユーロ(約1130円)の半額以下で働き、ベッド代として月100ユーロ(約1万2600円)を給料から天引きされている。1日14時間労働の人もおり、この3年間に10人以上が自殺したという。

拡大する写真・図版伊中部サバウディアの農場で働くインド人移民労働者が暮らす部屋=10月22日、河原田慎一撮影

 イタリアで新型コロナウイルスの感染が広がり、イタリア人労働者がロックダウン(都市封鎖)で仕事に来なくなっても、農場の移民労働者は休むことは許されなかった。地元メディアによると、農場では感染防止対策が取られず、5月には「マスクや手袋を配布してほしい」と求めた33歳の移民労働者の男性が農場主らに棒で殴られて水路に投げ込まれ、骨折する事件が起きた。

拡大する写真・図版伊中部サバウディアの農園のビニールハウスで働くインド人の移民労働者=マルコ・オミッツォロさん提供

 オミッツォロさんによると、ラティーナ県では農業にマフィアが入り込み、市場や物流を仕切っているという。農家はマフィアの支配下の業者を通さない限り農作物を売りに出すことができず、業者に農作物を買いたたかれる構図になっている。「農家は少しでも出費を抑えようとして、ヤミのあっせん業者を通じて低賃金で働く移民労働者を雇っている」とオミッツォロさんは指摘する。こうした「マフィア農業」に、同県の約1万の農家・農業法人の約6割が依存しているという。

 オミッツォロさんは「トマト缶が一つ1ユーロ(約126円)以下で買えるのはなぜか。現代の奴隷の移民労働者がいるからだ。私たちはこのことを知らなければならない」と訴える。(サバウディア=河原田慎一)

紛争地から逃げてきた母子、家賃だけで貯金が…

 命の危険から母国を逃れ、難民として認めてほしいと新天地に移った人たちも、移民と同様に新型コロナで苦境にあえぐ。

 南半球のオーストラリアでは今年3月、新型コロナの感染拡大を受けて、全土で外出規制が敷かれた。当時、中東の紛争地から11歳の娘と6歳の息子を連れて逃げてきた女性(38)は、シドニー西部の民家の車庫で寝泊まりしていた。

 女性は子どもたちと昨年12月に入国。年明けに難民申請をすると、審査中の一時滞在ビザと労働許可が出た。新生活を始めるために借りた車庫では、シャワーもまともに使えなかった。

 それでも、まずは仕事が見つかれば、と思っていた矢先、新型コロナが猛威を振るい始めた。外出規制で飲食店や小売店は営業できず、失業者は約30万人増えた。仕事探しは困難になった。家賃の支払いで貯金は底をつき始めた。週350豪ドル(約2万7千円)という額は、車庫にしてはかなり割高だったと入居してから知った。

拡大する写真・図版オーストラリアのNGO「難民希望者センター」が設けた臨時の食料品配送所。寄付された食料品を仕分けして、1世帯分に袋詰めしていた=2020年10月2日、シドニー、小暮哲夫撮影

 女性は難民を支援するNGO「難民希望者センター(ASC)」に連絡し、ASCが家賃を肩代わりする物件に7月に引っ越した。仕事は今も見つからない。2週間に1度、ASCから届く食料が頼りだ。女性は「支援がなかったら飢え死にする」と語る。ASCは難民希望者に食料を無料で届ける支援を今年3月に始め、今では約500世帯、約1200人が受け取っている。

拡大する写真・図版オーストラリアのNGO「難民希望者センター」が設けた臨時の食料品配送所。寄付された食料品を仕分けして、1世帯分に袋詰めしていた=2020年10月2日、シドニー、小暮哲夫撮影

 豪政府は多文化主義を掲げ、年1万数千人の難民を受け入れている。だが、コロナ禍で拡充した失業手当などの対象は自国民と永住資格者に限定した。永住資格を得た難民と違い、難民認定を希望し、結果を待ちながら滞在する外国人は支援を受けられない。民間団体の推計では、そんな外国人約11万6千人の失業率は外出規制前の19%から42%(5月末)に、ホームレスの割合は7%から12%(7月)に急増した。

 モリソン首相は「第1波」のさなかの4月、自国民と永住者以外は支援する余裕がないとして、外国人は「自分の国に帰る時だ」と発言した。だが、難民希望者に帰れる国はない。(シドニー=小暮哲夫)

拡大する写真・図版新型コロナウイルスは国教をまたぐ移動にストップをかけた

「日本の脆弱さも浮き彫りに」 鈴木江理子・国士舘大教授

 コロナ禍は、日本でも外国人労働者が脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれていることを浮き彫りにした。雇用者数の減少が著しい製造業や宿泊・飲食サービス業で働く外国人は多い。派遣や請負の割合も高く、雇用の調整弁として真っ先に解雇の対象とされた。生活支援のためのセーフティーネットがあっても、言葉の壁などで利用できない外国人も多い。

 一方で、多くの産業が東南アジアなどからの技能実習生に「依存」している実態も明らかになった。家族の帯同を認めない技能実習生は、都合のいい労働力として受け入れが拡大していたが、コロナ禍で国境が閉じて来日できず、深刻な人手不足が発生した。

 在留外国人293万人の8割を占めるのは、定住化への道が開かれ、将来、日本国籍を取る可能性もある人々だ。日本はすでに移民社会だ。だが、政府は有用な労働力を歓迎し活用する一方で、「いずれ母国に帰る」として日本語教育など権利の保障や受け入れ環境の整備を怠ってきた。

 日本国憲法は「将来の国民」の基本的人権を守ることをうたう。難民や難民申請者も含め、社会を担う対等な存在として外国人と向き合い、能力を発揮してもらえる環境を作れば、全ての人々にとって幸せな社会をつくれるのではないか。

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