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 柳美里さんの小説「JR上野駅公園口」が11月、米国で最も権威のある文学賞の一つ「全米図書賞」の翻訳文学部門を受賞した。翻訳を手がけて同時受賞したのは、米ケンタッキー州出身のモーガン・ジャイルズさん(33)。「翻訳せずにはいられなかった」というジャイルズさんに、この小説や日本への思いについて聞いた。

 ――おめでとうございます。授賞式では涙が止められませんでしたね

 「職業翻訳家として長編小説を全訳したのは、初めてでした。まさか受賞できるとは思っていなくて。この小説の文章はとても美しいのですが、主題はとても難しく、悲しい。今年は多くの人が新型コロナウイルスなどでとてもつらい時を過ごしているため、もっと明るい物語が好まれるのではないかと思っていたんです。だから、すごく驚きました」

「JR上野駅公園口」の主人公の男性は1964年の東京五輪の前年、出稼ぎのために故郷の福島を離れ、東京で建設業の仕事に就く。だが、家族を相次いで失い、JR上野駅公園口でホームレスとして生きていく。最終盤には、東日本大震災の描写もある

「表」のイメージへの異議

 ――ジャイルズさんなら、この小説の内容を、どう表現しますか

 「私にとっては『もうひとつの20世紀の日本』を、一人の男性の視点を通じて語ったものです。戦後日本の繁栄は、主人公のような低賃金、重労働の人たちによって支えられました。東京五輪のための建築物などがそうです。でも、その人たちが個人的に、繁栄の恩恵を受けることはありませんでした。日本社会がいかにして成り立っているのか、一般常識への異議申し立てです」

 「たとえば、日本政府が推し進めようとしている『クールジャパン』のイメージへのカウンターと言っていいかもしれません。私たちが日本に対して感じる物事の裏面というか。だからこそ、この小説は極めて大事なストーリーなんだと感じています」

 「日本は理想的な『表』のイメージが、まるで商品のように世界中に売れてしまっています。でも、日本にいれば、その『裏』が容易に見えるはずです。それにもかかわらず、多くの国民が信じたがる『理想』が、『現実』をはるかに上回る形で表に出ているのではないかと、不思議に感じます」

 ――小説の主人公は家族を生かすために単身で出稼ぎに行き、愛する人たちを次々に失い、路上生活者になります。この小説に、希望を見いだすことはできますか

 「難しい問いですね。小説の内容自体に希望はないかもしれません。でも、私にとっては、東京都民がふだんは思いをはせないような、めったに声を聞かないようなホームレスの人たちの葛藤に目を向け、そこに共感を覚えたとしたら、それが希望なのかと思います」

米国で共感された理由

 ――そうした日本を描いたこの小説が、なぜ英語圏で、多くの人びとの共感を得たのでしょうか

 「いま、多くの人たちが目を覚…

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