つくば「ワイン特区」第1号 個人経営醸造所が出荷開始

庄司直樹
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 小規模なワインづくりができる構造改革特区に認定された茨城県つくば市で、個人経営の醸造所による初めての地元産ワインの出荷が始まった。近年、ワインに興味を持つ人が筑波山のふもとに相次いで参集。「第1号」の船出で、産地形成に向けた機運が高まっている。

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 田畑が広がる栗原地区にある「Tsukuba Vineyard(ヴィンヤード)」。産業技術総合研究所地質調査総合センター(つくば市)に勤める高橋学さん(65)が、2014年から耕作放棄地を借り、研究職のかたわらブドウ栽培を続けてきた。今年、待望のワイナリーを建設。8月に税務署から果実酒製造免許の通知を受けて、ワインづくりに入った。

 収穫したブドウはこれまで、筑西市の酒蔵に頼んで醸造してもらっていた。全ての工程を自ら決めるのは初体験だ。今年は夏の長雨でブドウに病気が出て、収穫量が計画を下回ったが、よい実を選んで仕込んだ。「味に点数をつけるなら65点から70点。初めてにしては上出来です」

 11月中旬、ブドウ栽培から醸造まで自前で手がけた初めてのワインとして、辛口の「ロゼ」600本の販売を始めた。今季は、ほかに赤2種類、白1種類のリリースを予定しており、今月から順次出荷していく。気軽に飲めるワインを目指しているため、値段は2千円から3千円程度にする。

 北海道猿払村出身。北大で工学の博士号をとり、岩石や岩盤の分析を専門としている。農業やワインに関心も縁もなかったが、定年退職後の身の振り方を考えるうち、一生できる仕事として挙がったという。栽培と醸造は、ほぼ独学だ。

 栗原醸造所の看板を掲げたワイナリーを切り盛りするのは高橋さん1人。つくばで30年以上暮らすため、子どもが小さいころ通った学校の「パパ友」ら同世代の仲間が、折に触れ手伝いに来る。「楽しい場所をつくりたいという私の夢に、それぞれ思いを重ね合わせてくれているようです」

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 つくば市は、高橋さんに促されて国税庁構造改革特区の申請を行い、17年末に「つくばワイン・フルーツ酒特区」の認定を得た。酒税法では通常、ワインを含む果実酒は年間6キロリットル以上つくらないと製造が許されないが、特区になれば特例として3分の1の2キロリットルでよくなる。

 遊休農地の増加や農家の後継者難などに悩む市は、ワイン産業による地域の活性化を思い描く。特区認定後、脱サラして東京から移住する人や米作りから参入を目指す農家、欧州でワインづくりを学んできた若者ら、市内でブドウ栽培やワインづくりを希望する人たちが相次いで現れている。

 農業政策課の猪(いの)圭さんは「筑波山ろくのワイナリーを巡るワインツーリズムを催して誘客するなど、市内にワインを楽しむ文化をつくっていきたい」という。

 高橋さんは気の向くまま、畑に15種類のブドウ品種を次々と植えてきた。ワイナリーを開く夢を実現したいま、スパークリングワインに力を入れたり、来訪者にタンクからグラスに直接注いで飲んでもらったりしたら面白いなど、やりたいことのアイデアが次々と浮かんでいる。「つくばは多様性のある産地になるはず。これからが本当に楽しみです」と話した。(庄司直樹)