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 冬のカニシーズンに入り、鳥取県が「蟹取(かにとり)県」を自称している。カニの資源保護のため、沖合にコンクリートブロックを沈めて「カニ牧場」をつくったり、最高級のズワイガニを「五輝星(いつきぼし)」と名付けてブランド化したり……。新型コロナウイルスの影響で、各地の観光業が深刻な打撃を受けるなか、長年のこうした取り組みを背景に、巻き返しを図っている。(松尾慈子)

 「はい、キズありません!」「6番、6番ね!」

 午前8時すぎ、鳥取県岩美町の網代(あじろ)港では、競り人や仲買人の威勢のいい声が響いていた。この朝あがったばかりの松葉ガニ(ズワイガニの雄)など約500匹が20分ほどで競り落とされた。

 網代港には県内のカニ漁船24隻のうち10隻が所属する。この日は、4日間沖で漁をしてきた2隻が入港した。県漁協網代港支所の博田(はかた)幸史支所長(54)は「今年のカニは大型が多く、品質も良い」。漁期は松葉ガニが来年3月20日まで、親ガニ(ズワイガニの雌)が12月末までだ。冬の港が活気づいている。

 観光業を支えるカニを枯渇させてはならない――。漁獲量が低迷した30年ほど前から、県はカニが生息する水深200~300メートルの海底5カ所に、9年がかりでコンクリートブロックを設置した。

 名付けて「カニ牧場」。底引き網がひけないようにしてカニの繁殖地とした。牧場の広さは東京ドーム2340個分(1万1320ヘクタール)。県水産課の宮辺伸(しん)係長は「漁獲量は増えてきた。一定の効果があった」とみる。

 冬のカニシーズンに「蟹取県」を自称するようになったのは2014年からだ。名乗るだけの根拠はあるという。

 農林水産省の19年の統計によると、都道府県別のカニ類の漁獲量は、北海道が1位(約5400トン)、鳥取が2位(約2900トン)。一方、主要漁港でのカニの水揚げ量では、鳥取(6089トン)が、2位の北海道(3820トン)を抑えて日本一となる。多くの加工場が集まる境港(鳥取県境港市)に、周辺県の漁船も入港するためだ。仲買人も多く、大量に水揚げしても値が崩れにくい、と選ばれている。

 とるだけでなく、よく食べる。総務省の家計調査(17~19年の平均)では、2人以上の世帯でのカニの購入数量は、鳥取市が年間2176グラムで、全国の県庁所在地と政令指定市の中で1位に輝く。全国平均(386グラム)の5倍以上だ。地元では値段の手頃な親ガニが、みそ汁の具として親しまれている。赤身の内子(卵巣)、プチプチとした食感の外子(卵)、そして濃厚なカニミソ。一方、松葉ガニは祝いの席で重用されてきた。

 松葉ガニの最高級品を「五輝星」として認定する制度は、5年前に始まった。甲羅の幅が13・5センチ以上、重さ1・2キロ以上、色みが鮮やかで、身が詰まっているなど厳しい条件をクリアしたカニが選ばれる。昨年11月、賀露(かろ)港(鳥取港、鳥取市)での初競りで、五輝星のカニにギネス世界記録となる1匹500万円の値がついた。

 今年、新型コロナの感染が広がり、県の観光業も打撃を受けている。県の調査では、4~9月に鳥取、米子両空港を利用した人は約7万5千人で、前年同時期の約13%にとどまっている。

 需要を呼び起こそうと、県は宿泊施設の利用者らに抽選でカニをプレゼントする恒例の「蟹取県ウェルカニキャンペーン」を2カ月早め、7月から始めた。「Go To イート」事業では、県内の飲食店で使えるプレミアム付き食事券を総額50億円発行。8千円で1万円分の飲食ができ、ローソンなどで予約なしで購入できる。発売6日間で約6億円分が売れた。自宅でもカニを楽しんでもらおうと、ネット通販サイト「蟹取県 ウェブカニキャンペーン」(https://www.47club.jp/event/webkani/別ウインドウで開きます)も開き、ステイホームの顧客獲得もめざす。

 コロナ後も見据えている。山陰地方のPRを担う一般社団法人「麒麟(きりん)のまち観光局」は、網代港でのカニの競りを、修学旅行などの見学コースとして売り込む計画だ。「素のままの生活が見えるところに価値がある」と石塚康裕事務局長(47)。漁協の博田支所長も「我々の日常が観光資源になるとは驚き。見て楽しんでくれるなら」と歓迎している。