タイで奪われた娘の命 「なぜ」父親は追い続ける
タイ北部のスコータイで2007年、一人旅をしていた大阪市出身の劇団員、川下智子さん(当時27)が何者かに殺害された。何があったのか。なぜ死ななければいけなかったのか。時効が近づくなか、両親や友人らが毎年のように現地に足を運んでいる。
「とにかく捜査が進んでほしい、そんな気持ちです」。智子さんの父、康明さん(72)はそう話す。
事件があったのは13年前の11月25日。王朝遺跡などで有名なスコータイにある世界遺産の寺院遺跡「ワットサパーンヒン」の近くで、智子さんが遺体で見つかった。
タイの警察当局は、首などを刺されたことによる失血死と判断した。パスポートやカメラがなくなっていたが、1万円相当の現地通貨が入った貴重品袋は残されていた。
知らせを受けた父の康明さんは、翌日すぐに妻とタイへ飛んだ。「間違いであってほしい」。思いは裏切られ、冷たくなった智子さんと対面した。
直前まで、旅行の様子をメールで知らせてくれていた智子さん。その後、何が起きたのか。事件の真相を知りたいと思う一方、「娘を奪ったタイには、もう来たくもない」と考えていた。
父の気持ちを変えさせたのは
そんな思いを変えたのが、智子さんが所属していた劇団「空晴(からっぱれ)」を主宰する岡部尚子さん(46)だった。智子さんは旅行に行く直前まで、劇団の旗揚げ公演に出演していた。「おっとりして見えるけど本当に頼りになる智ちゃんがなぜこんなことになったのか」。岡部さんも言葉にできない思いを抱えていた。
「一度現地を見にいきたいと思っているんです」。岡部さんの言葉に、「そこまで娘のことを思ってくれているのか」と康明さんも動かされた。08年、岡部さんら劇団員と康明さん夫妻はタイへ向かった。
「この場所を智ちゃんも歩い…
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