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 ミナミの中心にのれんを掲げて71年。老舗銭湯「あかし湯」が、今月26日をもって廃業する。理由はコロナ禍と、建物や設備の老朽化。経営する西野栄二さん(79)は「長いことできたのは感謝しかないわな。寂しいけど、時代の流れやから」。

 創業者の父から経営を受け継いだのは、大阪万博前の1968年。当時のミナミは活気に満ち、キャバレーや料亭、置屋が軒を連ねていた。あかし湯は銭湯のほか3階にサウナ、4階にマッサージ室を備え、夜の街で働く人たちの疲れを癒やし続けた。「芸者も遊び人もヤクザも、裸になれば一緒。上手にガス抜きすることが大切」と西野さん。

 思い出は2003年。プロ野球の阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝を決めた夜、若者が次々と道頓堀川に飛び込んだ。

 西野さんは「入浴お断り」の貼り紙はしたものの、15人以上があかし湯になだれ込んだ。他の客からは「臭いから何とかして」と言われたが、きつくは注意しなかった。「来る者拒まず。人間、追い詰めすぎたらあかんから」と笑う。

 コロナ禍が直撃した4月から、来店客は4割減った。ホストやホステス、居酒屋の従業員ら常連客は「仕事がなくなってみな散ってもうた」。6月に共同経営者の長男と相談し、店をたたむと決めた。

 半世紀、街の浮き沈みを見てきたが、ここまで人通りが消えたことは無かった。それでも「あかん時はじっとしてるしかない。朝の来ない夜はないから」。(細川卓)