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 仏像や石仏、こま犬などが寺社から盗まれる事件が後を絶たない。2020年も奈良県内で2件あった。県警のまとめでは、この10年間で盗難被害は約20件あるという。今年11月に仏像3体が盗まれた東吉野村の天照寺を訪ね、被害の実態を住職に聞いた。

 天照寺の住職浅井真澄さん(71)は11月19日、本堂の仏像3体がなくなっていることに気づいた。本尊の両脇に仏像をまつる棚があり、向かって右側の棚の下に、黒い漆がはがれて散らばっていた。掃除をしたはずなのに――。浅井さんがふと上を見ると、棚にあったはずの地蔵像1体と観音像2体がなくなっていた。

 地蔵像1体は高さ1メートルほどの厨子(ずし)に入っており、観音像2体は厨子なしで約40センチ。いずれもつくられた時期がわからず、文化財には指定されていない。浅井さんは同日、桜井署に被害届を出したといい、県警が窃盗容疑で捜査している。

 天照寺は1971年、境内の薬師堂が県の文化財に指定された。薬師堂におさめている薬師如来と十二神将は年2回の行事以外は通常施錠しているが、本堂については日中開放していた。「地域の人の信仰があついですからね。いつでも誰でも拝めるように」と浅井さん。

 浅井さんが本山での修行を終え、住職になったのは77年。当時、東吉野村は林業が盛んで、檀家(だんか)は村内に150世帯近くいたという。林業の衰退や世代交代に伴い、村外に人口が流れるようになった。今では村内の檀家は80世帯ほどになったという。

 一方、近年はキャンプブームなどで村に県内外から人が訪れるようになった。浅井さんは「人の流れが変わった。地域は信仰で心がつながっていたのに」と言う。

 今回の被害を受けて地元の檀家らと話し合い、境内数カ所に防犯カメラを設置することを決めた。年内には設置を終える予定だ。ほかにも、本堂の仏像をまつる棚にアクリル板の扉をつけることにした。防犯設備にかかる費用は檀家らで出し合うという。

 「何百年と地元に守られ、私にとっては預かり物だった仏像が私の代でなくなった。色んな人の思いでまつってあったもの。早くかえってきてほしい」(竹中美貴)

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 奈良市の世界遺産・薬師寺は今年、堂内に防犯カメラを設置した。新型コロナウイルスの感染防止のため、職員の人数を減らしたことで死角ができた影響だ。3年前に食堂(じきどう)を再建した際は、赤外線センサーを設置した。食堂の壁画の1メートル以内に接近するとブザーがなる仕組みになっている。

 防犯設備の設置は進んでいるようにみえるが、寺は設備の拡充に慎重だ。安田奘基(じょうき)執事は「参拝者の気持ちはどうか。監視されているような感じになってしまうのではないか」。信仰の場所に防犯カメラがあることに違和感を抱くという。

 「性善説だけじゃ済まされない時代になってきているのかもしれません。でも、お寺は、世の中に犯罪者を増やさない、人づくりの場所。人を信用する心を大事にしたい」。防犯は「信仰とのバランスが大切です」。

 一方、県警の上谷賢治・文化財保安官は「お寺の慈悲の心や、仏像を人の手で守りたいという考えはよくわかる。でも、防犯カメラは捜査の確実な客観証拠。犯罪が繰り返されないためにも、根気強く設置を呼びかけていきたい」と話す。(竹中美貴)