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 12月3日、岐阜県笠松町の笠松競馬場。師走恒例の重賞「笠松グランプリ」が開かれ、スタンドでは競馬ファンたちが馬券を握り、レースを見つめていた。

 半年前まで活躍していた騎手、調教師ら4人は8月に「引退」し、どのレースにも名前はない。出走に必要な免許を交付者である地方競馬全国協会が更新しなかったからだ。「彼らが辞めて、真剣勝負になったんじゃないか」と常連の自営業の男性(51)は皮肉まじりに話した。

 「事件」は6月に明るみに出た。岐阜県警が調教師1人と騎手3人の自宅や厩舎(きゅうしゃ)を競馬法違反(馬券購入)容疑で一斉に家宅捜索し、事情聴取したのだ。

 競馬法が調教師や騎手ら関係者の馬券購入を禁じるのは、不正を防ぐためだ。公正なレースを前提にファンは勝ち馬を予想し馬券を買う。

 笠松競馬の話題を取材していた私は、家宅捜索の情報を得た。調教師と騎手の1人はトップ級の実力者。6月下旬、自宅から出てきた調教師の男性(36)を直撃した。「辞める時にきちんと話すので」「八百長じゃない」と言葉少なだった。

 その男性は約3カ月後、朝日新聞の取材に応じた。騎手らと馬券購入サイトを利用し、馬の体調や脚の状態などの「内部情報」をもとに馬券を買っていたと認めた。自らも騎手だった2015年以前は、競馬開催中に騎手と外部との接触を断つ「調整ルーム」に携帯電話を持ち込み、知人にメールを送り購入を依頼していた、とも明かした。

 取材を進めると、馬券購入容疑と関係のない元騎手らも「調整ルームに入る際に手荷物検査はなかった」と話すなど、競馬を主催する岐阜県地方競馬組合の管理の甘さも浮き彫りになった。

 同組合は取材に「捜査を受けたことを重く受け止め、監視体制を強化した」と回答。調整ルームに関しては、入室時刻を繰り上げたり所持品検査をしたりしているとした。

「八百長に近い」と憤慨

 元調教師は動画投稿サイトで、馬券購入を認めて謝罪したが、若手調教師の1人は「自分らだけが知る内部の事情をもとに馬券を買うとは。ファンへの裏切りだ」。愛知県一宮市の50代男性は「上位人気になる自分の厩舎の馬が実は不調の時、他の馬の馬券を買っていたなら、八百長に近い」と憤慨した。

 捜索を受けた元騎手3人は「特に話すことはない」などと取材を拒否。笠松競馬場でレースの予想情報を売る男性は「3人は、なぜ辞めたのか自ら説明を」と話した。

 同組合は今秋、現役騎手と調教師、厩務(きゅうむ)員の全員から馬券購入の有無を聞き取ったが、違法な購入は確認されなかったという。

 ファンはそれを信じるしかないが、県警の捜査は今も続いている。(荻野好弘)