上海=宮嶋加菜子
中国経済の中心地、上海。黄浦江沿いの高層ビルは夜な夜な輝きを放つ。夢を抱く若者たちがやってくるこの街で、胡昌良さん(26)が暮らして9年。金融機関が集まる陸家嘴地区で、保険会社の広報部員として働く。多忙な日々だが、弁当作りは欠かさない。いつも一品、故郷の味を詰めて出勤する。
内陸部の江西省上饒(シャンラオ)で生まれ育った。地方の小さな街で、両親は出稼ぎに。一緒に暮らす祖母が高齢で、10歳ごろから食事作りは胡さんの担当になった。貧しく、肉はめったに買えない。自分でつくる青菜炒めが、一番の好物になった。
17歳で名門の復旦大学に合格した。入学のため上海に来たのが2011年夏。観光客でにぎわう旧租界地「外灘(バンド)」に立ち、陸家嘴地区の摩天楼を見て夢の世界に来たような気分になった。
クラスメートは洗練されて裕福に見え、劣等感の塊になった。旧式の携帯電話を使うのが恥ずかしく、夜になってから学生寮のベッドの中でこっそり取り出した。
拡大する自分で作ったお弁当を見せる胡昌良さん=上海、宮嶋加菜子撮影
積極的に周りに声をかけるうちに友人も増え、劣等感も薄れていった。携帯には毎日、「今日はちゃんと食べた?」という母からのメッセージが残っていた。
仕事を始めて帰省する機会は減った。だが、昨年は思いがけず1月から約3カ月間、両親と過ごすことになった。春節(旧正月)に合わせて帰省後、新型コロナウイルスの感染拡大により移動規制が続いたためだ。食卓には母の手料理が並んだ。
上海に戻り、始めたのが弁当作…
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朝日新聞国際報道部