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 コロナ禍で苦境の観光業を支援する「Go To トラベル」事業。感染拡大に押される形で、28日から来月11日まで全国で停止される。度重なる運用変更に、岐阜県飛驒地方の観光業者から「混乱が混乱を呼んでいる」と批判が上がっている。

 下呂市で民宿を営む70代男性は積み上げた書類の山にため息をついた。「ルール変更のメールが頻繁に届く。もうついていけない」

 家族経営の民宿は国の緊急事態宣言が出た4月に休業し、6月から徐々に営業を再開した。7月から始まったトラベル事業に登録したが、客足は前年比で5割に届かない。旅行サイトで予約しないと利用できないため、高齢客の宿泊にはつながっていないという。

 10月からは土産物などの購入に使える「地域共通クーポン」の発行も始まったが、管理に頭を悩ませる。利用者に渡す1千円のクーポン一枚一枚の9桁の番号を管理しながら、500万円分を保管している。「大金を預かってるのと一緒。怖いし、パート1人をこの管理に付きっきりにさせている」と話す。

 トラベルは来年6月まで延長され、感染拡大で今年11月以降は一部地域の除外や利用自粛などルール変更を伝えるメールも日常茶飯事だ。「とてもじゃないが、末端の小さな業者のことを考えてつくられた制度とは思えない」と制度への不信感を募らせる。

 そもそも事業者としての登録も原則ネットでの申請が必要で、敬遠する高齢の経営者もいる。下呂市内で旅館を1人で営む60代女性は「ネットは難しくて分からないし、利用しようとも思わない」と話す。現在、市内の約4割の宿泊施設がトラベルに登録していないとみられる。

 旅行代金の35%が補助されるため、制度開始当初から高級ホテルや高額な部屋から予約が埋まるとの指摘があった。安さを売りにする飛驒市のゲストハウス経営者は「周辺の高いホテルに客が流れ、割安なうちの施設は使ってもらえない」と嘆く。10月以降の稼働率は1割ほどにとどまるという。

 14日に全国一斉停止が発表された。高山市の温泉旅館の経営者は「運用の手間をかぶっているのは宿泊施設。国の方針に従うしかないが、もっと将来を考え、停止する時期を前倒しするべきだった」と話した。

     ◇

 制度の問題点について生活経済学が専門の岐阜大学の大藪千穂教授に聞いた。

 ――トラベル事業について中小の業者から不満が噴き上がっています。

 制度の穴が多すぎます。まずは平等性の観点から問題があります。そもそも観光業とそれ以外の業種間での不平等があります。その上、事務手続きが煩雑で、人件費が増やせる大手しかついてこられない制度になっています。中小は利用しにくく、企業規模での不平等があります。

 利用する側にしても、一見、すべての国民が使える制度になっていますが、医療従事者は利用できない人が多い。また感染を恐れ、ステイホームに徹している人も同様です。原資が税金である以上、利用しないと損と考える人の心情、「お得感」につけ込むような制度は政策としてどうなのかと思います。

 ――制度の利用者は延べ5260万人を超え、来年6月まで延長されました。

 菅義偉首相は多くの人が利用したと効果を強調してきました。しかし、どれほどの経済波及効果があるのかは示していません。膨大な事務手続きに税金が使われている以上、経済波及効果について丁寧に説明をしてほしいです。(山下周平)

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