拡大する写真・図版しめ縄を張る竹内洋岳さん(右)ら。左奥に「天岩戸」を拝める天岩戸遥拝所が見える=2020年12月、宮崎県高千穂町岩戸、天岩戸神社提供

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 しめ縄発祥の地とされる宮崎県高千穂町岩戸の天岩戸(あまのいわと)神社が創建以来初めて、ご神体の「天岩戸」にしめ縄を張った。断崖絶壁の中腹に位置し、専門業者が断念したほどの難所。世界的に活躍するプロの登山家らの協力もあり、歴史的な神事が実現した。

 古事記や日本書紀で有名な神話・天岩戸開き。天照大神(あまてらすおおみかみ)が隠れたとされる洞窟「天岩戸」は、縦横奥行き共に9メートルほどある。八百万(やおよろず)の神たちが合議した末、ようやく天岩戸から出た天照大神がもう二度と隠れてしまわないようにしめ縄を張った――これが発祥の地とされている由来という。

 西本宮拝殿の裏には、天岩戸が見える遥拝(ようはい)所があるものの、参拝には必ず神職が同行する。神域のため、現地に足を踏み入れることだけでなく、ご神体の写真撮影も禁じられている。

 24代宮司の佐藤永周(えいしゅう)さん(37)は12年前、天岩戸神社の神職に就いた。天岩戸の案内時、対岸に位置するご神体の位置が参拝者にうまく伝わらないことが多かった。発祥地なのにしめ縄がないことにも疑問を感じていた。業者に相談したこともあったが、安全面の理由から断念したという。

拡大する写真・図版しめ縄を張る準備をする登山家の竹内洋岳さん=2020年12月、宮崎県高千穂町岩戸、天岩戸神社提供

 「本当はしめ縄を張りたいと思っているのですが……」。今年の春ごろ、遥拝所での案内中に長年の願いをふと口にした。すると、参拝客として居合わせた登山家が「何とかしてみましょうよ」と声を上げた。こうして計画が動き出した。

 8月、登山家4人が現地調査を実施。その中には、竹内洋岳(ひろたか)さん(49)の姿もあった。日本人でただ一人、世界に14座ある8千メートル峰の全山登頂を達成した登山家だ。

 しめ縄を張る位置を地上50メートル、頂上から70メートル下の地点に定め、張る際には崖を登るのでなく、頂上から降りていく戦略に決めた。

 しめ縄は長さ20メートル、太さ5センチ。落下しにくいように可能な限り軽く、かつ長持ちする頑丈な素材を選んだ特注品だ。

拡大する写真・図版断崖絶壁の中腹に位置する「天岩戸」に張られたしめ縄=2020年12月、宮崎県高千穂町岩戸、天岩戸神社提供

 しめ縄を張る神事は18日に営まれた。朝6時半、気温マイナス5度の中で儀式は始まった。佐藤さんは、この日のために特別な祝詞(のりと)を用意した。古来のしめ縄の存在意義や由緒を踏まえ、神話を継承していく決意のほか、コロナ禍で世界的に停滞した情勢を打開して世の中が明るくなりますように――と、現代ならではの願いも込めた。

 佐藤さんや氏子らが見守るなか、竹内さんら登山家3人が絶壁に臨んだ。クライマーらしい身のこなしで、約30分で無事に張り終えた。

 大役を果たした竹内さんは「神話でしめ縄を張った布刀玉命(ふとだまのみこと)の役を、私が果たせたことに安堵(あんど)と喜びを感じています」「これまでの登山経験が、現在と神話を結びつけ、新たな神事が始まったことに誇りを感じます」などとコメント。

拡大する写真・図版しめ縄を張る準備をする登山家の竹内洋岳さん(左)ら=2020年12月、宮崎県高千穂町岩戸、天岩戸神社提供

 佐藤さんは「緊張しながら見守りましたが、手際のよさに感動しきりでした。この機会を逃せば実現できなかった」と胸をなで下ろす。「ご神体としての雰囲気や存在感に深みが増したと感じます。地元の方にも参拝して頂けたらうれしいです」

 混雑が予想される新年三が日は、「密」を避け、入場時間を区切らずに遥拝所に出入りできるような対応を検討するという。(浜田綾)