第4回核禁条約は「切り札」に 被爆国として進むべき道はある
秋山信将・一橋大学大学院教授
核兵器禁止条約が1月22日に発効する。核兵器の使用や威嚇、保有など核兵器に係るほとんどの活動を禁じた同条約は、核廃絶を希求する市民社会や非核保有国の精力的な活動が結実したものである。日本でも被爆者や市民を中心に政府に同条約の批准を求め、あるいは直ちに批准することは無理でも発効後の締約国会合へのオブザーバー参加を求める声が高まっている。
人類が「核なき世界」を目指す方向性が望ましいことは間違いない。他方、その目標に至る過程で核禁条約に対し日本が採るべき政策は、理念だけでなく、国際政治の現実を踏まえ考える必要がある。
日本が核禁条約に加入すれば、核兵器禁止規範の普遍化にとって大きな象徴となるだろう。しかし、道徳や社会規範だけでは国家の行動を規制できない。条約は核兵器に係るほとんどの活動を禁止する包括的な条約だが、残念ながら条約が成立することで普遍的な規範が国際社会で確立されるわけではない。条約非加入の国家は条約の拘束を受けず、核兵器国がこぞって不参加を表明している核禁条約は、法理論上、核兵器の法的禁止という国際慣習法を構成しえない。すなわち、道義的な議論は別にして、核保有国は核禁条約の成立だけでは、何ら法的に核兵器に係わる活動に制約を受けないことになる。
確かに国際社会で核のタブー(規範)が広がれば、核兵器使用に対する道義的なハードルは高くなり、それによって核兵器保有国に対する倫理的な忌避感は高まるであろう。しかし、それでも核禁条約の規範からの逸脱の可能性は残る。
核兵器の存在が自国の安全保障に直結する国にとっては、核を使用される可能性という最悪のシナリオに対しては、できうる限りの備えをすべき、すなわち敵対国が核を保有する限りは自国もそれに対して相応の備えをすべきというのが安全保障の理論である。
核兵器の使用のリスクは人類全体に大きな影響を与えうるという核の非人道性、もしくは人間の安全保障の論理は、巨視的な観点から核兵器と人類の関係性に対する重要な論点を提示する。しかし、核兵器が自国にとって差し迫った、より具体的な脅威になる場合、危機管理的な視点から、より現実的な対応を採らざるを得ない。
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