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 10月末、東京都江東区の公共施設の一室に、約30人が集まった。

 アルコール依存症の体験者が経験を語り合い、「二度と酒を飲まない」という気持ちを新たにする「断酒会」だ。

 参加した男性(47)は、「今後も定期的な断酒会が続いてほしい」と祈るように両手を握っていた。

 男性は同年代の友人が飲んでいたこともあり、中学生のころから酒を飲んだ。17歳で沖縄から上京。建設現場で働き出すと、ビールのロング缶を毎晩6本空けた。

 20代で結婚し、水道工事会社で「上に行こう」と仕事に励んだ。

 帰宅後は食卓でテレビを見る妻と向き合い、黙々と飲んだ。土曜日の夜はとことん飲み、日曜日は起きるとすぐに缶に口をつけた。

 なぜそんなに酒を飲んだのか。

 小さいころから「優しい」と周囲に言われた。争いを避け、怒鳴る同僚にも言い返さない。頼んだ仕事をやらない部下がいれば、肩代わりした。人間関係のストレスを感じても、酒を飲むと忘れられた。

 30代後半の時、妻が入院したことがあった。

 手術後の面会にどんな顔で行ったらいいのかわからず、勢いをつけようとほろ酔いになった。

 「こんな日に飲んで」。妻は泣いた。

 酒で文句を言われたのは、初めてだった。以来、そのことを何度もとがめられた。ある朝、妻はいなくなった。

 酒量は一晩でロング缶10本になった。

 ゲームや映画に出てくるような悪魔が大勢現れる幻覚を見るようになった。名前を連呼されたり、何かをするように強いられ、できなければ死ぬと脅されたりした。

 2018年夏、3度目の幻覚を見た。2週間、追い回されて眠れず、死ぬ方法を探して街をさまよった。

 熱中症で倒れて救急搬送され、葛飾区の福祉事務所につながった。更生施設に入り、専門のクリニックで自分がアルコール依存症だと知った。

 講義を受けたり、ほかの患者と話したりして病気を理解し、平穏な日々を過ごした。

 生活支援を受けられるアパートを経て、一人暮らしを始めた19年11月、断酒会に初めて参加した。

 「過去の過ちを素直に認めます」「新しい人生を創ります」と断酒の誓いを唱和し、大勢の前で依存体験を話した。顔見知りができ、飲みたい気持ちが自然に消えた。

「ステイホーム」 心の隙間に酒が入り込んだ

 今年4月1日、地元の断酒会のグループに正式に入った。6日後、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京など7都府県に緊急事態宣言が出た。

 不要不急の外出を自粛するように求められ、断酒会が会合に使っていた公共施設が使えなくなった。インターネットで公開されている断酒会の予定は、どれも休会に変わった。

 糖尿病などの持病を抱えている会員も多く、感染すれば重症化の恐れがあるため、人との接触をできるだけ避けなければならないという判断もあった。

 断酒会に参加できないことは、男性にとって致命的だった。仲間と顔を合わせ、「もう飲まない」「新しい人生を創る」と誓い合うことで、断酒を守る気持ちが続いていたからだ。

 男性は3月末から週3日、清掃の仕事をしていた。かつて暮らした東京都江東区の更生施設「塩崎荘(しおざきそう)」が紹介してくれたものだった。

 仕事がない日は、依存症の治療のためにクリニックに通い、運動や語り合いをするデイケアに参加した。

 外に出ている間は酒と離れていられたが、一人で家にいると、ふつふつと飲みたい気持ちが沸いてきた。

 「今まで頑張ってきて疲れた。どうせコロナでみんな死んじゃう」。そう思うようになった。

 心の隙間に酒が入り込んだのは…

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