拡大する写真・図版好きなプロレスのマスクも参考にしたというネイチャーレッド=三浦誠さん提供

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 ご当地ヒーローは数多くあれど、島根県江津市の「ネイチャーレッド」は基本的に悪者と戦わない。たとえ悪者であっても、相手にもくむべき事情や理由があるから。子どもたちと一緒に遊び、「命の大切さ」や「慈悲の心」を説く。

 「中の人」は、三浦誠さん(44)。江の川にほど近い江津市川平町南川上(みなみかわのぼり)の浄土真宗本願寺派「正福寺(しょうふくじ)」の16代目住職だ。ある時まで、島根とも仏教とも縁がなかったが、周囲の人の支えに感謝する思いが、ヒーローを誕生させた。

 東京生まれの東京育ち。大学を卒業後、都内の学習塾経営会社で働いた。先代住職の長女、志保子さん(43)と出会い、京都・西本願寺で得度。27歳で正福寺を継いだ。

 門徒から「若さん」と呼ばれて上座に座らせられたり、名士から酒をつがれたり。「甘んじて、天狗(てんぐ)になってはいけない」と自身を戒めた。川でのエビ取りや山菜採り、野菜作り、タケノコ掘り……。初めて尽くしの体験に、これまでの知識の乏しさを痛感した。「いろんなものに感謝する気持ちになりました。東京では隣に誰が住んでいるかわからないけど、こっちは距離が近い。困ってたら支え合います」。子ども好きで、小学校の教員免許も持つ身。「子育てを支援しよう」と2015年、ヒーローになろうと決めた。

拡大する写真・図版SNSを駆使し、県外にもファンがいる三浦誠さん。本堂にはファン手作りのフィギュアや絵も=島根県江津市川平町南川上

 「ネイチャー」と名付けたのは「自然しかないから」。額には葉っぱのマーク。デザイナーで中学美術講師の志保子さんとマスクや衣装を考えた。しめて十数万円。「本当は仲間を作りたかったんです。2人のALT(外国語指導助手)が応じてくれたけど、帰国してしまいました」

 昨年、公民館のイベントで悪者風の3人組と戦ったが、最後は手をつなぎ一緒に歌を歌って終わった。「意見が違うだけで相手を悪にしてしまうのは違う。怖そうだからというだけで、悪者と決めつけちゃうのはいけないよね、と。暴力では解決しません」

 コロナ禍で今年の登場機会は減ったが、子どもたちの誕生日にサプライズ訪問することも。今月26~28日に子ども寺子屋のイベントを寺で開き、久しぶりに登場する。「ネイチャーレッドが『仲良くしなさい』と言えば、『はい』と言ってくれる。住職の姿で言うより効果は高いですね」

 寺に足を運んでもらおうと、マルシェや音楽会も開いてきた。地域は過疎・高齢化が進み、江の川の水害被害にも見舞われるが、あせりや力みはない。「僧侶の本来のあり方は仏法を伝えていくこと。自分の使命がそれだと思えば、仏法の未来は大丈夫。種さえまけばいつか咲くと思います」(小西孝司)

拡大する写真・図版好きなプロレスのマスクも参考にしたというネイチャーレッド=三浦誠さん提供