【動画】明日もこの星で プロローグ
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 群馬県館林市にある縫製工場の2階、6畳の3人部屋に敷いた薄い布団の上で、ダオ・ティ・フエンさん(26)は毎晩、スマートフォンのビデオ電話を通じて話しかける。

 「元気? 今日は何してたの?」

 画面には幼い男の子の笑顔。故郷ベトナムに残す一人息子、ヒウ君(5)だ。

拡大する写真・図版終業後、寮の部屋でベトナムに残してきた息子と電話する技能実習生のダオ・ティ・フエンさん=2020年12月3日、群馬県館林市、内田光撮影

仲介手数料は70万円

 技能実習生として1日8~10時間、ミシンの前に立つ。仕事が終わり、ヒウ君と会話する夜のひとときが一番の楽しみだ。ただ、「ママ、早く帰ってきて」とせがまれるのがつらい。

 首都ハノイの南東約40キロに位置するフンイエン省キムドン県の出身。実家は畑が広がる田舎町にある。高校卒業後、地元の縫製工場に勤めたが、月給の2万~3万円は国が定める最低賃金レベルだった。一緒に暮らす両親は農家でコメや野菜を栽培するが、現金収入は月2万円ほど。フエンさんは結婚せず、シングルマザーとしてヒウ君を育て、金銭的な余裕はなかった。

 苦しい生活のなか、日本の技能実習制度のことを知った。実習生として働いて貯金し、帰国後、家を建てた人が近所に住んでいた。そのことを知り、「私も日本で働いてみたい」と思うようになった。近所の知人から、日本へ実習生を送り出すハノイの仲介業者を紹介してもらった。

 仲介業者に接触すると、「毎月手取りで9万円ほどの給料を稼げる」と説明された。地元では稼げない高収入だ。「日本で働いて、ヒウの将来のために教育費をためたい。それから、2人で住む家も建てたい」。日本行きを決心した。2年前のことだ。

拡大する写真・図版祖母のビンさんが見守る中、自宅前で友だちと遊ぶフエンさんの一人息子のヒウ君(左から2人目)=2020年11月18日、ベトナム北部キムドン県、宋光祐撮影

 仲介業者からは手数料として70万円を請求された。ベトナム政府は仲介業者の手数料の上限を3600ドル(約37万円)に規制している。だが、技能実習生の支援団体によると、ほとんどの仲介業者はこの規制を守らず、政府は違反を取り締まっていないという。

 70万円はフエンさんも両親も、とても払えない額だ。家族で話し合い、両親が実家の家と土地を担保に銀行から90万円を借りた。この90万円が、手数料を含むフエンさんの来日費用になった。母親のビンさん(51)は「借金を返済できなければ、土地と家を取られる。不安はあった」と話す。

 技能実習制度では家族を連れて来日することはできない。2019年7月、フエンさんは当時4歳だったヒウ君を両親に預け、日本へ向かった。母親と離ればなれになったヒウ君が寂しがって泣くたび、ビンさんは「ママが帰ってきたら、ヒウと暮らす家を買うよ。我慢してね」と慰めた。

拡大する写真・図版2019年7月、フエンさん(左から4人目)の日本出発直前、ハノイの空港で一人息子のヒウ君(同3人目)ら家族と撮った記念写真=フエンさん提供

 ベトナムは急速な経済発展を遂げ、2019年の国民1人あたりのGDP(国内総生産)は約2700ドル。2010年の約1300ドルから倍増した。一方で、富裕層と貧困層の格差の拡大が社会問題になっており、政府は技能実習など先進国での「出稼ぎ」を奨励している。フエンさんも、そうした国策に背中を押された一人だ。

現れた弁護士が告げた言葉

 日本で暮らす技能実習生は2019年末、41万人に達した。このうちベトナム人は22万人で最多だ。その日本にも、新型コロナウイルス禍が迫っていた。

 岐阜県を流れる木曽川のそばに…

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