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 新型コロナウイルスの感染拡大で廃業の危機に陥った一軒の食堂が、店内で遊ぶ猫たちの姿をSNSに投稿したところ評判になり、客足が戻った。店の売り物の鉄道模型と小さな猫たちという組み合わせが、注目を集めている。

 大阪市天王寺区で食堂の経営に携わる寺岡直樹さん(56)は6月上旬、子猫を見つけたという近くの保育園から相談を受けた。生まれたてらしい子猫の印象は、「なすびみたい」。手のひらに収まる小さな命の愛くるしさにひかれ、引き取ることにした。ミュージカル「ライオンキング」から「シンバ」と名付けた。

 まもなく、店に1匹の猫が近づいてくるようになった。シンバを気にするようなそぶりを見せる。えさをやると、くわえたまま去っていった。

 7月になり、店のそばで3匹の子猫が見つかった。シンバを気にしていたあの猫の子どもたちだった。3匹は毛並みなどがシンバと似ており、きょうだいと思った。「家族をバラバラにするのはかわいそうや」とスタッフたちは言い、保護猫の団体の指導を受けながら店で飼うことにした。

 店の名は「ジオラマ食堂 てつどうかん」。ランチやコーヒーなどの店だが、店の真ん中には、高度経済成長期の地方都市をイメージした鉄道模型「Nゲージ」の大きなジオラマがある。愛好者らが持ち込みで好きな車両を走らせる。ただ、コロナ禍で休業が続き、閉店を考えたこともあった。

 営業再開を前にした9月中旬、寺岡さんは猫たちを店内で歩かせてみた。子猫たちはケージで育てていたが、狭くて可哀想だったからだ。精巧なジオラマが壊されてしまうと心配するスタッフの不安は的中し、猫たちはジオラマの上を思いのままに動き回る。模型の車両を踏んづけ、照明やホームの屋根はなぎ倒した。

 鉄道模型の店を始めて十数年の寺岡さんも、以前はジオラマを乱雑に扱われるのが許せなかった。ただ、懸命に動き回る猫たちを見て、「細かいことは気にせずに少しでも自由にさせてあげたい」と思えた。猫がジオラマで遊ぶ様子を、SNSで発信してみた。

 反響は想像以上だった。猫たちの大胆な行動が鉄道ファンではない人にも拡散されていく。食堂には次々と予約が入り、週末には数十人が訪れることもある。寺岡さんは「猫を助けたつもりが、助けられたのは自分だった」と言う。

 営業時間内は鉄道模型で楽しむお客を優先し、猫たちは店内のケージの中に。終業後、寺岡さんは猫たちをケージから出し、ジオラマ上で遊ぶ姿を撮影して発信を続ける。

 子猫たちは成長している。大きくなっても耐えられるように、今ではジオラマのメンテナンスを週2回に増やし、部品を頑丈な素材に替え進めている。(辻健治)