第5回6年も勉強するのに…視界晴れて地域の薬剤師「恩返し」
新潟市の港から高速のジェットフォイルで1時間あまり行くと、佐渡島である。人口5万人あまりに薬局は20店ほど。このうち、「さど調剤グループ」は6店をもつ。
春になるころ、薬剤師の光谷良太(みつやりょうた)(31)は身構えた。
「来る、必ず来る」
新潟市の大きな病院から次々に処方箋(せん)がファクスされてきた。ふだんは来ない人たちがその薬を買いにきた。理由は、新型コロナウイルス。島の外に出たくない人たちが、通っていた新潟市の病院の遠隔診療を受け、病院から処方箋を送らせたのだ。
薬を渡すだけの場所?家業への疑問
薬局は父が始めた。仕事は夜遅くまで、大変そうだった。光谷は思った。
「ボクは違う道に進みたい」
親に気持ちを伝えると、薬剤師の資格だけは取ってくれ、と頼まれた。仕方ないので薬科大学に入った。周囲から聞こえてくるのは、薬局と薬剤師へのバッシングだった。
「薬局って薬を渡すだけの場所でしょ」
「大学で6年も勉強するのに、薬を早く出すことが仕事なんて、つまらないね」
薬剤師の資格をとったときも、モヤモヤ感は晴れなかった。資格をとっても使わなければ、つまらない。なので、少し働いてみようかと新潟市の薬局チェーンに就職した。
そのチェーンは、医師や看護師らとの連携を大切にしていた。通院できない患者宅に薬を届ける仕事もしていく。モヤモヤ感が晴れてきた。
勤めてから4年あまり。父が心臓の病で倒れてしまった。島では手術できず、新潟市に運ばれた。病院で父に会った。薬局のスタッフから「いつか一緒に働きたい」との手紙をもらった。
2019年、島に帰った。高齢化と過疎化が進み、都会でなければ診療できない病気がある。そんな島が、未来の地方医療の姿に見えた。そして、新型コロナ。父の薬局を島の人たちが頼りにしてくれた。
病院で気軽に受診できない日々が続く中、見慣れた地元の薬剤師に安心を感じる人も多かった。
「薬局は安心を与える町の明かりにならねば。もう迷いはない」
新潟市の病院から、処方箋のファクスが流れてきた。この薬の在庫は……、ないかあ。患者さんが薬局に来た。光谷は言った。
「薬の在庫がないんです。こ…