服役後の障害者・高齢者 生活支援で再犯防止へ
障害者や高齢者が刑務所を出所した後の生活支援を手がける静岡県地域生活定着支援センター。全国的に再犯率の高さが問題となる中、センターでは2009年の設立から10年以上かけて累計で300人以上を支援してきた。生活苦で犯罪を繰り返す人を減らすことに貢献する一方、支援の現場で職員たちが直面する課題は今も多い。
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「1人だったら刑務所を出て途方に暮れていたでしょうね」。13年に刑務所から出所後、センターの支援を受けた県内の60代男性は話す。
男性は50代前半のある日、自宅で動悸(どうき)がひどくなり、立つこともできなくなった。搬送された病院で医師から循環器系の病と診断され、「障害を持って生きることになります」と言われた。
同居し、結婚を考えていた女性に病気のことを打ち明けると、「一緒にはいられない」と別れを告げられた。職業安定所で仕事を探したが、「持病があるので厳しい」と言われ、次第に自暴自棄になり、自殺が頭をよぎった。
「最後に何か楽しいことをしよう」とホテルや飲食店で無銭飲食を繰り返し、警察に逮捕された。勾留中に病院で診断を受け、障害者手帳を交付された。裁判では詐欺罪で懲役2年8月の判決を受けた。
出所の半年ほど前にセンターの職員が面会に来て、出所後は、住民票の取得や生活保護の申請をサポートしてくれた。一緒に不動産屋も回り、1カ月ほどかけてアパートを見つけた。「保証人もいなかったので、1人で家を探すのは無理だった」と振り返る。
今はワンルームの部屋で静かに暮らす。困ったことがあれば、付き合いの長いセンター職員に相談する。「月の半分は病院通いで、金銭的にも余裕はない。それでも衣食住がそろい、いざというとき頼れる場所がある。幸せだと思います」
2年前、刑務所で毎日書いていた日記を処分した。たまに読み返して刑務所での辛い日々を思い出し、自分を戒めていた。「どん底から救い上げてもらい、この人たちに迷惑をかけたくないと思いました。もう自分は大丈夫だと思ったんです」
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地域生活定着支援センターは厚生労働省が生活苦による高齢者や障害者の再犯を防ぐことを目的に09年度から事業を始め、47都道府県に設置を促した。事業の背景には、06年に、出所した高齢男性がホームレスになり、刑務所に戻りたい気持ちから山口県のJR下関駅を全焼させた事件などがあった。
県内では社会福祉法人あしたか太陽の丘(沼津市)が県から委託を受けて運営している。支援対象となる受刑者は出所後に住居がないことなどが条件となる。刑務所が選定し、保護観察所がセンターに支援を依頼する。センターの職員は出所予定の受刑者と面会し、住まい探しや受け入れ先の施設の調整などをする。県内のセンターは09年から昨年3月末にかけて計319人を支援してきた。
支援実績を積み重ねる一方で、課題も多い。静岡保護観察所の大平義信・統括保護観察官は、「生活保護の申請や施設の受け入れが難航するケースも目立つ。支援センターの活動がまだまだ認識されておらず、自治体職員などに理解を広める必要がある」と指摘する。
同センターによると、支援対象者の中には住民票が自治体から職権消除されているケースや、入所前に住まいを転々としていて出所後に住みたい地域に縁もゆかりもないケースもある。そうした場合、福祉サービスを提供する自治体が住民票の取得や生活保護の申請に難色を示すこともあるという。
「出所者が安定した生活を手にするまでの道のりは想像以上に険しい」。センターの所長で社会福祉士の須田早苗さんは話す。特に出所後の高齢者施設やアパート探しでは身元保証人がいないため入居先が見つからず、悩むことが多い。
センターでは福祉施設や自治体の職員向けに、出所者の支援について説明する出前講座を開いている。須田さんは「早い段階で福祉につながっていれば犯罪に手を染めなかった人もいる。時間はかかっても地道に支援の理解を広めていくことが大事だと思っています」と話している。(植松敬)
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静岡県警によると、昨年の刑法犯の検挙者は5883人で、このうち再犯者が2446人、再犯率は41・6%だった。県内の刑法犯認知件数は17年連続で最少を更新する一方、近年の再犯率は40%台で推移しており、再犯防止が課題になっている。
法務省の犯罪白書によると、1996年~2017年、受刑者が出所して2年以内に再び刑務所に入った割合を世代別でみると、65歳以上が22・3%で最も高い。県が今年3月に策定した県再犯防止推進計画では、知的障害のある受刑者も全般的に再犯に至るまでの期間が短いとしており、高齢者・障害者の再犯防止を重要な課題の一つと位置づけている。
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