歴史教科書「なぜ採択?」育鵬社版を継続の大田原市に声

平賀拓史
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 今夏、来年度から中学校で使われる教科書採択が各地であった。焦点の一つが「新しい歴史教科書をつくる会」の流れをくむ育鵬社版の歴史・公民教科書だった。これまで育鵬社版を使ってきた全国の自治体の多くは他社版に切り替えたが、大田原市は引き続き育鵬社版を採択した。

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 大田原市教委は7月、5年前に引き続き、中学の歴史、公民いずれの教科書にも育鵬社版を採択した。

 「自虐史観」の克服を掲げた「つくる会」(1997年設立)の教科書の発行社はフジサンケイグループの扶桑社だったが、内紛でつくる会の自由社と扶桑社の子会社の育鵬社の二つに分かれた。

 歴史教科書で「太平洋戦争大東亜戦争)」と併記されていることや、公民で愛国心を強調する記述があることなどに、専門家や市民から批判の声も上がっている。

 2005年、大田原市は「つくる会」のメンバーが執筆した扶桑社の歴史、公民教科書を採択した。反対運動が全国に広がる中、市町村レベルでは全国初めてだった。全国ニュースになって報じられた。11年度からは育鵬社版を採択し、今回で3回目になる。県内の自治体で育鵬社版を使うのは大田原市だけだ。

 同市教委は7月15日に採択した。教育長と教育委員5人が出席。公開する議事録によると、委員の1人は育鵬社版について「問題とする指摘もあるが、史実をより深く知ろうとする機会になる」と評価。別の委員は「育鵬社版が問題とされること自体を問題としてとらえて、現場の先生に議論してほしい」と発言した。

 採択は教科別にせず、一括ではかられた。全会一致で可決された。

 市教委によると、育鵬社版を使う市立中は8校。生徒は約1800人。事務局は21日時点で「保護者や教員から苦情や意見は一切ない」と説明している。

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 今夏、これまで育鵬社版を使ってきた全国の自治体が相次いで他社版に切り替えた。同一の教科書を使用する地区として全国最大の横浜市は歴史、公民ともに他社に切り替えた。採択自治体が多かった大阪府内でも大きく減らした。

 文部科学省のまとめによると、今年度採択で採用された育鵬社版のシェアは歴史が1・1%(15年度は6・3%)、公民が0・4%(前回5・7%)に大きく減少した。

 大田原のほか、石川県加賀市も歴史、公民とも育鵬社版を採択した。

 「栃木県では教科書問題への関心が薄い」。育鵬社版に反対する市民団体「子どもと教科書全国ネット21」会員として、大田原市教委の動向もウォッチしてきた小菅博史さん(71)=那須塩原市=はもらす。

 05年に大田原市が「つくる会」教科書を採択した際には、反対する市民ら約40人が詰めかけた。採択後、教育長の車を反対派が取り囲んで騒然とする一幕もあった。当時の中心メンバーは亡くなったり、転居したりした。

 今も月1回、小菅さんは県北地域の仲間と教科書問題の勉強会を開く。「賛成反対以前に、自分の子どもがどんな教科書で勉強しているのか、親世代が知る必要がある」と力説する。

 「自由法曹団」に所属する宇都宮市の石田弘太郎弁護士は6月、大田原市教委を訪れて育鵬社版の問題点を指摘した。「なぜ採択されたのか、そこに至る議論が分かりにくい。どんな教科書を使っているのか、市民に知ってもらいたい」(平賀拓史)