ドローン立県へ社会実験 「めざせ西日本最大の拠点」

中島健
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 農薬の散布や測量などの産業分野で活用され始めたドローンの実用化の幅を広げようと、大分県は企業と連携して社会実験に取り組んでいる。先端技術で地域課題の解決を図りつつ、課題を洗い出して新ビジネスの創出や県内企業の育成につなげる狙いがある。「ドローン産業の西日本最大の拠点をめざす」としている。(中島健)

 昨年7月の豪雨で道路が寸断され、集落の孤立が長く続いた大分県日田市中津江村で1月27日、ドローンを使った救援物資の配送訓練があった。通信が途絶して安否確認が難航した反省を踏まえて、集落に衛星電話などの物資を届ける方法や運用を検証した。

 訓練は、ドローン運航会社「ノーベル」(日田市)と日本赤十字社県支部、日田玖珠広域消防組合や県、県警、日田市が協力して取り組んだ。

 県などによると、昨年の豪雨では、旧村の5地区で計19世帯36人が最大7日間孤立した。従来は携帯電話で区長らと連絡を取って安否を確認するが、停電も発生し、固定電話も携帯電話も不通になった。結果、自衛隊や消防、県警などが徒歩で集落を回り、安否を確認したという。

 日田消防署の矢野潤署長は「我々は情報がなければ動きがとれないことを痛感した。崖崩れがどこで起きているといった情報も欲しいし、孤立集落に衛星電話を送ってもらうと助かる」と期待をかけた。

 訓練は、昨年の豪雨で市道が寸断され、実際に4世帯9人が孤立した平野地区に、市中津江振興局からドローンで物資を届けるという内容。直線では約500メートルしか離れていないが、徒歩だと大きく迂回(うかい)して40~50分かかり、危険な場所を越えるため二次災害の恐れもある想定でおこなった。

 物資輸送に使用したのは直径1・7メートル、高さ0・9メートル、重さ30キロの大型ドローン。林業用で20キロの物資まで運べるとされているが、バッテリーを保ちながら往復するため、訓練での物資は毛布や衛星電話など8・5キロに絞った。

 まず、日田消防署が小型ドローンを飛ばして被災状況を確認した後、日赤が準備した物資を大型ドローンに固定。ドローンは振興局を飛び立つと、自動操縦で高度60メートルを保って飛び、ごく短時間で集落に到着。電波が途切れない範囲の高度30メートルに滞空したまま、ロープをかけた物資をウィンチでつって下ろし、振興局に戻った。

 物資を受け取った畜産業の長谷部亘さん(22)は衛星電話で通話できることも確認し、「災害時に連絡が取れないと自分たちがどうなっているのかも分からず、周りの人たちと連携もとれない。ドローンだと時間もかからず物資が届くのでありがたい」と話した。

 この日の訓練に向け、昨年11月ごろから、ドローンに指示する電波が届くかなどを確認するテスト飛行を3回重ねた。2月には、九州北部豪雨で被災した同市の小野地区でも実証実験を計画。物資を何度も運ぶことを想定し、時間短縮のためドローンから物資を投下する訓練も予定している。

 緊急輸送のノウハウが確立しても、災害はいつ起こるか分からず、事業としては成立しづらい。ノーベルの野元孝通社長(35)は、運営する操縦者育成スクールでの活用を視野に、「ノウハウを確立して、スクールで教えたり、自治体などに解決策を提示したりできれば」と話した。

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 県は今年度、企業と組んでドローンを使った物流などの実証実験に次々と取り組んでいる。

 佐伯市では、高齢化などで収穫した農作物を運ぶことが難しい農家から、ドローンで受け取って販売先の道の駅に運ぶ集荷を実験。津久見市では、離島の無垢(むく)島まで片道16キロを飛ばし、医薬品や生活必需品を配送することも試した。

 実験は県にとって、人口減社会を踏まえた地域課題の解決につなげることが狙い。過疎地や離島への配送、農作物集荷、医薬品配送での実用化は、国が2022年度に開始できると期待する分野でもあり、県は今年度、実証実験を含めたドローン産業振興事業費に約1億8千万円の予算を計上している。

 大分での実験には、ANAホールディングスやゼンリンNTTドコモなどの著名な企業も参加しているが、実験の前提には、ドローンを飛ばすことへの地域の理解や法律上の規制をクリアすることが必要だ。

 県は17年度からドローン産業振興に取り組み、18年度から実証実験を重ねてきた。全国的には市町村レベルで熱心な自治体もあるが、都道府県が主体となってこれほどの実験を積んできたのは珍しく、「多くの企業が興味・関心を持っている状況」(県新産業振興室)という。

 物流面での実用化に向けては、ドローンをただ飛ばすだけでなく、受発注のシステム構築や医薬品をそろえる業者など幅広い業種との連携が不可欠。県内企業にとってはビジネスチャンスだ。計画に参加すれば、課題に対応することでスキルアップができる。参加しない企業でも、実用化にこぎ着けた場合には、機体や部品の修理などで波及効果が期待できる。

 17年度に設立された県ドローン協議会には220社を超す企業が参加し、開発の支援や情報の共有をおこなっている。県新産業振興室の小石昭人室長は「地域課題の解決を通して、新ビジネス創出や産業振興につなげたい」と話す。

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 実は、国内ではドローン自体の規格や安全性の基準が定められていない。現在は、飛行継続時間や最大積載量などの性能もメーカー側に委ねられている。国は2022年度から機体の認証制度を導入する方針で検討を進めている。

 いち早く機体の検査に目をつけ、県産業科学技術センターと大分市の「ciRobotics(シーアイロボティクス)」が共同開発したのが「ドローンアナライザー」。日本初の性能評価装置だ。

 センターによると、ドローン全体の能力や動作を確認するには、現時点では飛行させるしか方法がない。ただ、墜落すれば軽自動車ほどの高価な機体が一瞬で駄目になる。

 アナライザーは、アームの先にドローンを固定して傾けたり、上下に移動させたりして作動させることで、飛んでいるのと同じような負荷をかけて数値を計測でき、機体のバランスやモーターの不具合発生などを確認できる。ドローンの最大出力やバッテリーの耐久性も試験できるほか、農薬散布などを想定して、積み荷の減り具合に応じた飛行シミュレーションも可能だという。

 15年から開発を続ける同センターの下地広泰主幹研究員(46)は「ドローンは危険だ、と認識され、社会に受け入れられなくなるのはもったいない技術。第三者的に安全性を担保することが必要になると考えた」と、アナライザー開発の理由を説明する。

 昨年末には、世界最大級のロボット研究開発拠点とされる福島県南相馬市の「福島ロボットテストフィールド」に、8800万円で納入され、ドローンの規格や安全性の基準作りへの活用が想定されている。

 県産業科学技術センターは昨年11月、ロボットテストフィールドと国の外郭団体「情報通信研究機構ワイヤレスネットワーク総合研究センター」と連携協定を結んだ。機体を評価するにはどのような検査が必要かなどの意見を交換し、3者で国に提言することも検討する。センターもアナライザーを生かし、認証制度での性能評価の拠点となることに期待をかけている。