第3回乳児の脳に見つけた分厚い血腫 家庭という密室に迫る

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山崎毅朗

拡大する写真・図版遺体が語る「声なき声」に耳を傾ける法医解剖医。5回連載でその現場を伝える。デザイン・花岡紗季

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 「たばこの火を押しつけられた痕だ」。法医解剖医・高瀬泉は直感した。

 十数年前、高瀬が滋賀医科大の助教だったとき、児童相談所から鑑定依頼があったケースだ。写真に写る女児は児相が一時保護した3歳。左ひじに赤いただれがあった。

 児相の説明では、女児は「お母さんにたばこを押しつけられた」と打ち明けた。だが、シングルマザーの母親は「病院で『とびひ』と言われた」と話したという。虐待かどうか、判断に困った児相は高瀬に助けを求めた。

 とびひが原因でないことは明らかだった。高瀬は、高温の物体が皮膚に触れたやけどと判断した。ただ、左ひじ以外には虐待を疑わせる傷は見られなかった。

 虐待する親は、子どものころ自分自身が虐待被害者だった場合もある。つい手が出てしまったのか。

 うその説明をした母親の境遇も気がかりだった。高瀬は慎重に判断し、「継続的な見守りが必要」との意見を添えて児相に鑑定書を提出した。

 高瀬には、虐待が疑われる子どもの傷の鑑定依頼が、年に20件ほど来る。

 子どもの傷を直接見るとき、高瀬は普段着で子どもと向き合い、けがをした経緯を必要以上に聞かない。子どもの心を傷つける「二次被害」を避けるためだ。子どものしぐさや表情を見ながら、言葉にできない不安や苦しみをくみ取っていく。

 小さな命が失われる事態を防ぐため、法医学の専門性を現場でも生かせないか――。高瀬は講演を通じて、児童虐待を見逃さないために必要な知見を臨床医や児相、警察などに広めようとしている。

 特に力を入れているのが、無罪判決が相次いだ子どもの「揺さぶり死」の問題だ。

法廷に映し出されたCT画像

 生後5カ月の男児を「揺さぶ…

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