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 2020年11月、宮崎県日向市の山あいの地に「九州パンケーキCafe日向東郷店」がオープンした。こけむした和風の庭や紅葉する木々に囲まれた「九州一美しいカフェ」と自慢する店は、コロナ禍で疲れた心を癒やしに来る人たちでにぎわっている。

 カフェを営む押川敬視さん(35)は県北の延岡市と日向市で、障害者が通う就労支援事業所を経営している。40人ほどの障害者の働き先として、企業から点字名刺作成や清掃、食器洗いなどを請け負ってきた。

 20年春、新型コロナウイルス拡大の影響で経済活動が滞り、障害者の仕事も減っていった。「ウィズコロナ時代でも障害者が働ける場所を自社で持てないか」。そう考えていた8月、宮崎市を拠点に九州パンケーキカフェを展開する一平ホールディングスの村岡浩司社長(50)と話す機会があり、ウィズコロナ時代の新しいカフェのあり方で意気投合した。

 誰でも「ハッピーで笑顔」になれるという九州パンケーキのコンセプトに共感。働く人、訪れる人の多様性を受け入れる場所として、障害者がマイペースで働ける新たな就労場所として日向東郷店のオープンを決めた。国内外で7店舗目、宮崎県内では初のフランチャイズ店だ。

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 宮崎市出身。父、祖母、親戚が教員という教員一家に生まれ、自身も福岡教育大学を経て父と同じ小学校教師になった。就職して6年目のこと。父が13年間務めた教頭を降り、一般の教諭になる出来事があった。上司と部下の間に挟まれるなど、強いストレスで体調を崩したことが原因だった。背中を追いかけた存在がなくなり、自分を見つめ直すきっかけになった。

 自分が働く職場にも仕事に追われ、上司との関係に悩んで心が折れそうな同僚の姿があった。「働く人が満足できなければ、いい教育も、サービスもできない。出会った人たちを家族のように大切にできる会社や居場所づくりをしたい」。約8年間勤めた小学校教師を辞めた。

 夢をかなえるため、延岡市で16年、株式会社「めだかファミリーグループ」を立ち上げた。めざすのは「幼児保育」「お年寄りの介護」「障害者の就労支援」が一体となった施設。子どもたちが裸足で外を走り回り、お年寄りがそれを見守る。障害者は施設に働きに来て、子どもたちの遊び相手にもなる――。そんな居場所だ。

 まずは友人や周囲の勧めで障害者の就労支援事業からスタートした。障害者のために、チャイルドシートの洗浄や点字名刺作成などの仕事を受注。2年後には日向市でも事業所を始めた。障害者の就労支援は軌道に乗りつつあり、「スタートからやっと3分の1のところまで来た」と話す。

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 オープンしたばかりのカフェでは、栗やイチゴなど地元の旬の素材を風味豊かにアレンジしたパンケーキが人気だ。障害者たちはここで開店前の清掃作業にあたる。ゆくゆくは厨房(ちゅうぼう)での洗い物や調理も任せたいと、押川さんは考えている。心を癒やす環境とおいしいパンケーキが提供できれば郊外でもお客は来てくれる。コロナ禍で人の動きが制限される中でも、そんな手応えも感じている。

 4月には、メダカと水草を観賞用のガラスケースに収めたアクアリウムの販売店を延岡の本社内にオープンさせる計画だ。教師時代に疲れた心を癒やしてくれたメダカを会社名にしたほどの愛好家。飲食とともに就労支援の収益事業の柱にしたいと思い描く。「自然に囲まれた場所で食事を楽しんだり、動植物で心を癒やしたりする動きはコロナ後も変わらないはずです」

 カフェやメダカで人を癒やしながら、様々な個性の人が自分のペースで働き、暮らす。そんな理想の居場所づくりを追求していくつもりだ。

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 「人を育てて社会に送り出すって、学校教育と同じなんですよ」。障害者就労支援事業について尋ねた時の押川さんの言葉だ。納税者として働けるようになれば社会を支える一員になる。

 性別や年齢、背の高さ、右利き・左利き、近視・遠視、生い立ち、考え方など、人には個性がある。子どもからお年寄り、障害のある人たちがそれぞれの個性を発揮し、無理なく地域や社会に参加できる「昔ながらの大家族」が押川さんの理想という。ぜひ、夢をかなえて欲しいと思う。(菊地洋行)

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〈おしかわ・たかし〉1985年生まれ。宮崎県延岡市に家族4人で暮らす。県内3校の小学校で教師を務めた後、めだかファミリーグループを起業。九州パンケーキカフェ日向東郷店(宮崎県日向市東郷町山陰丙1056の2、電話070・4766・3939)の営業は午前11時~午後4時。火曜定休。

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