「幸せに生きる」とは? 教えてくれるチーズの味

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神村正史

拡大する写真・図版チーズ工房チカプの店舗兼工房の前に立つ菊地亮太さん、芙美子さん夫妻=2020年11月25日、北海道根室市、神村正史撮影

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 「幸せに生きる」とは――。あるIターンの夫婦が作るチーズの物語をたどると、その答えが見えた気がした。

 本土最東端の北海道根室市にある根室半島。「野鳥の楽園」とも呼ばれるこの半島の付け根に「チーズ工房チカプ」はある。チカプはアイヌの言葉で「鳥」を意味する。

拡大する写真・図版チーズ工房チカプの主な商品。パッケージにはそれぞれのチーズにつけられた鳥の名前と絵があしらわれている

 6種類のチーズを作り、販売している。それぞれに鳥の名前をつける。看板商品は、熟成に半年以上をかけるハードタイプの「シマフクロウ」だ。

14キロのチーズ 「おいしい」体が反応

 切り出す前の1ホールで14キロほどもある。断面は、表皮近くは生キャラメルのような深く濃い黄色。中心に近づくにつれてだんだんと明るい色になっていく。

拡大する写真・図版熟成室でハードタイプのシマフクロウの状態を確認する菊地亮太さん。室内には熟成中のチーズが放つ刺激的な香りが充満していた=2020年11月25日、北海道根室市、神村正史撮影

 ひとかけら口に含む。

 すぐにうまみと塩味と香ばしさが口内を支配し、唾液(だえき)がどっと分泌される。体が素直に「おいしい」と反応したのだ。鼻に抜ける香りは、工房の周りに広がる牧草地の緑がオホーツク海と太平洋からの潮風になびく情景を目に浮かばせた。

 この豊かな味わいのチーズを送り出すのは菊地亮太さん(39)、芙美子さん(36)夫妻。亮太さんは神奈川県、芙美子さんは長崎県の出身。2011年夏まで、亮太さんはシステムエンジニア、芙美子さんはウェブデザイナーとして東京都内で働いていた。

 転機は、その年の黄金週間に訪れた。

 酪農を始めるために根室へ移住していた芙美子さんの姉から、「遊びにおいで。使われていないチーズ工房がここにあるよ」と連絡があった。当時、2人はチーズに特別に関心があったわけでもなく、まだ彼氏、彼女の間柄だった。1週間くらい遊びに行ってみようか、と軽い気持ちで根室へ向かった。

運命の出会い

 最寄りの中標津空港から2人を乗せた姉夫婦の車は、根室ではなく、内陸の中標津(なかしべつ)町にある牧場のチーズ工房へ向かった。女性の熟練チーズ職人に引き合わせられ、いきなり5泊6日の「研修」が始まった。運命のチーズとの出会いだった。

 「こんなものが日本にあった…

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