[PR]

女流棋士・水町みゆさん

 プロの女流棋士で、九州大の1年生。将棋と学業の両立に忙しいが、「デビューすると決めた時から大変なのは分かっていた。自分で決めたことだからがんばろう、と思ってます」と屈託ない。

〈みずまち・みゆ〉2001年4月生まれ。小学6年で女子アマ王位戦優勝。今は女流棋士初段(QTnet所属)。島朗九段に師事。福岡市在住

 小学1年で将棋を始め、中学の時は関西奨励会で腕を磨いた。福岡県立修猷館高校(福岡市)2年の時、プロの女流2級になった。

 高校3年の昨年度は特に忙しかった。受験勉強をしながら関東や関西で月2回ペースで対局に臨んだ。大学入試センター試験の10日前にも関西に遠征した。月2回のFMラジオ番組の収録も受験直前まで続いた。数学が苦手なまま本番に突入。浪人が頭をよぎった。

 それでも第1志望の九大文学部に一般入試で現役合格。将棋でも年間12勝10敗の対戦成績を残し、昨春、女流初段に昇級した。

 「奇跡的。自分でも、ようやったなあと思います」

 そんな門出の春はコロナ禍に見舞われた。思い描いた「バラ色のキャンパスライフ」は遠ざかり、前期はすべてオンライン授業に。キャンパスに行ったのは一度きり。その日のうちに課題を出さないと欠席とされる授業もあり、朝から夜中までパソコンと格闘する日々が続いた。

 後期になってやっと対面授業が始まった。週1回ほどキャンパスに通うようになり、新しい友だちができたと思ったら学内で感染者が出て、また逆戻り。「終わったと思った将棋がまだ終わってなかった感じ」

 大学生になったら、まだ行ったことのない海外に行き、将棋を通して日本の文化を広めるのが夢だった。それも当面は難しい。

 もんもんとしていた時、かつて読んだ本の一節を思い出した。いつか来るチャンスを確実につかむには、それに見あった人間になっておかないと――。「準備期間ができた」。今は前向きにとらえる。

体が足りない、分身できたらいいのに

 将棋を人に伝えるなら、自分がもっと強くならないといけない。広く局面を見て自分の言葉で伝えられるようになりたい。そして将棋だけでなく教養を深めて、自分という人間を高めたい。アニメだけじゃない日本の文化のおもしろさ、奥深さを伝えたい。

 藤井聡太二冠の活躍で、世は将棋ブームだ。小学生のころから通う将棋道場に来る人も増えた。女子も珍しくない。「福岡に女流棋士は私しかいないので、しっかり将棋のおもしろさを伝えたい」と意気込む。

 「やりたいことが多すぎて、体が足りない。分身できたらいいのに」。きらりと目を輝かせた。(聞き手・渡辺純子)

合格しましたが、ギリギリだった

 ――これまでの21世紀、どんな風に過ごしてきましたか

 高校2年でプロになり、ずっと学業と両立してきました。特に高校3年は将棋をやる時間がなくて、受験勉強の息抜きに将棋をするみたいな感じでした。

 大学入試センター試験の10日前にも関西で対局がありましたし、FMのラジオ番組の収録も受験直前まで月2回。結局、数学が苦手なまま、問答無用で受験になってしまった。奇跡的に九大文学部に合格しましたが、ギリギリだったと思います。

 ――それでも昨年度、将棋でも成果をあげています

 2019年度の対戦成績は12勝10敗だったので、20年春に女流棋士初段に昇級しました。不思議なことに、そんなに負けてばかりではなかった。中学のときに関西奨励会で頑張っていた力が残っていたのかな。自分でも「ようやったなあ」と思います。

 ――コロナ禍の入学となりましたね

 バラ色のキャンパスライフが一挙に遠ざかりました。前期の授業は全部オンラインで、大学に行ったのは一度だけです。同じ高校の人以外、ひとりも友だちができないままでした。

 後期になってようやくスペイン語の授業が対面になりました。週に1、2回、大学に行くようになって、ようやく新しい友だちが2、3人できました。でも最近(12月中旬)、学内で感染者が出て、スペイン語もまたオンライン中心になりました。終わったと思った将棋が終わってなかったというか。

 オンライン授業は課題が多いんです。その日のうちに課題を出さないと欠席になることもある。朝から夜中までパソコンに向かう日もあります。受験期と変わらないくらい将棋ができませんでした。ただ、自宅から通学に片道1時間半くらいかかるので、そこは楽といえば楽かもしれません。

 ――ずっと忙しい毎日ですね

 将棋と学業の両立が大変なのは、プロデビューを決めた時点で分かっていました。自分で決めたことだからがんばろう、と思っています。高校生でプロ棋士になったから経験できたことはたくさんある。FMラジオ番組のパーソナリティーもそのひとつです。将棋のことを自分の言葉で発信する経験は、将来の夢にもつながります。

 ――最近の将棋ブームをどうみますか

 藤井聡太さんとはイベントで会い、軽く話したことがあります。将棋のことを話す目がキラキラしていて、本当に将棋が好きなんだなと思いました。才能もあるし、努力もしていらっしゃる。本当にすごいと思う。一つ下とは思えない。

 たくさんの人に将棋を知ってもらい、道場に来る人が増えたのはありがたいです。女子も珍しくなくなりました。福岡に女流棋士は私ひとりしかいないので、しっかり将棋のおもしろさを伝えていきたい。

 ――これからの21世紀、どうしたいですか

 海外で将棋を広めたい、というのは変わりません。ただ最近、人に伝えるにはもっと自分が強くならないと、と思うようになりました。自分の棋力を上げて、筋の通った将棋を指せるようにならないと、話が薄っぺらくなってしまう。伝えるツールとしての英語も、もっと勉強したい。

 高校生のころは、大学生になったら海外に行って、将棋を通して日本の文化を広めたいと思っていました。でもコロナで渡航が当面難しくなった。準備期間ができた、ととらえています。いつか読んだ本に「先が見えない時代、ふと巡ってくるチャンスを確実につかむには、そのときそれにみあった人間になっておかないと」って書いてあったのを思い出して。

 大学でも幅広く、いろんなことに手を出したい。哲学やプログラミング、文化人類学など、浅く広くいろんなことを学び、教養を深め、自分という人間自体を高めたい。

 まだ一度も海外に行ったことがありません。いつか気ままに、海外をふらっと旅したい。カナダとか、ペルーとか。そして旅先で、将棋のおもしろさを伝えたい。アニメだけじゃない日本の文化のおもしろさ、奥深さを伝えたい。

 やりたいことが多すぎて、体が足りない。分身したいです。(聞き手・渡辺純子)

     ◇

〈みずまち・みゆ〉2001年4月生まれ。小学6年で女子アマ王位戦優勝。今は女流棋士初段(QTnet所属)。島朗九段に師事。福岡市在住