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 まじめな企業人が、上司への忠誠心ゆえに道を踏み外していく――。法廷で「事件」の経緯を語る男性の姿に、捜査当初から取材を続けてきた私は組織人の悲哀を感じざるを得なかった。

 日産自動車元会長カルロス・ゴーン被告(66)が不在のまま進む「主役なき法廷」。これまでの28回の審理のうち22回は、元秘書室長としてゴーン元会長を約11年も支え続けた大沼敏明氏(61)の証人尋問だった。

日産・ゴーン元会長不在の裁判
元会長が海外逃亡を続ける中、計約91億円に上る元会長の役員報酬を有価証券報告書に開示しなかったという金融商品取引法違反の罪の共犯として、元代表取締役のグレッグ・ケリー被告が東京地裁で裁かれている。

 「ゴーンさんの指示を行うことが私の役割」。証人尋問で大沼氏はそう断言した。指示を理解できずに元会長から文書にバツ印を付けられたことを「ショックだった」と振り返り、長年にわたって報酬の管理を任されていたことを「信頼」と語った。上司の評価を何よりも重んじる姿勢は、企業人として決して珍しくないものに思えた。

 大沼氏が法廷で初めて感情の一端を見せたのは、自身が文書を改ざんした過去を証言した時だった。2015年春、ゴーン元会長への支払いに関する巨額の予算計上を監査法人に疑問視された際、うその文書を会計士に提出したと明かした。他の行為と異なり、大沼氏が独断で犯した不正だった。「改ざんを今も後悔している」。大沼氏は声を震わせて心情を吐露した。

 今回の事件が有罪と認定されるかどうかとは別にして、外部監査に対する虚偽の報告は、それ自体が企業のコンプライアンスに大きく背くものだ。上司に忠実に振る舞うことを自身の存在価値としてきた結果、大沼氏は自ら進んで一線を越えていた。

 大沼氏は東京地検特捜部と司法…

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