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 群馬県高崎市中心部から車で約20分走ると、貸し切り民泊「きよみず邸」(箕郷町西明屋)が見える。木造3階建ての旧養蚕農家。市の歴史的景観建造物でもある。築73年。1階だけでも8畳の和室が6室並び、広々としている。切り盛りしているのは米西海岸のサンフランシスコ出身の女性だ。

 沢崎レンネさん(51)。地元の名門大学を卒業した1991年に来日。当時の日本経済の強さに興味を持ち、東京の大手証券会社で研修した。その後も日本の歴史や文化への関心が高じて、英語を教えながら福岡、大分、和歌山、兵庫と転々。95年、群馬県安中市の私立高に就職し、結婚して定住後は東京や埼玉、前橋市の私立大でも英語を教えた。

 レンネさんにはアイルランド人やイタリア人の血が流れる。そんな移民の遺伝子が受け継がれたような遍歴だ。

 教育現場では、2011年の東日本大震災で家族を亡くした心の傷が癒やせず、ひきこもったり、自傷したりする学生にも出会い、セラピーを習得した。長い日本生活で感じ取った人々の悩みや疲れを癒やせる場所として「貸し切りの民泊は一つの手助けになるかも」と思った。「ゆったりとした空間とすぐ近くにある温泉や榛名山などの自然を楽しんでもらいたい」

 16年暮れ、空き家となっていた現在の建物を購入。クモの巣とほこりだらけだった屋内を地元出身の夫、基保さん(60)と整えた。花器や置物は骨董(こっとう)店などで集めた。

 料金は1泊2人で約2万5千円。3人目からは1人9300円加算する。食材は持ちこみ。庭でバーベキューもできる。首都圏や県内の大学のサークル合宿、榛名湖への釣り客グループ、東京在住の欧米人団体など、宿泊客の顔ぶれは多彩だ。

 立地にも恵まれた。近くには国史跡の箕輪城跡や保渡田古墳群、隣には県の重要文化財で江戸時代の書院・庭園がある旧下田邸、榛名山も間近だ。

 順調だった経営は昨年、コロナ禍で暗転。基保さんは「予約が激減した。前年より6割は減った」とこぼす。「お客さんが減っても、帰る時に顔が明るくなっているのを見るとうれしい」と話すレンネさん。建物の2階を活用し、インターネットで国内や欧米と結んだセラピーで減収を補っている。

 夫妻は今年、この元養蚕農家の建物を結婚披露宴会場として売り込む計画だ。「ここを含め、日本では昔、自宅で挙式と宴を催していた。貸し切りで泊まりがけなので、ゆっくりとくつろげる。着付けや髪結い、料理など地域経済にも貢献できる」と意気込む。

 「思いやりや信用など日本人の心にほれた」というレンネさん。日本で骨をうずめる覚悟だ。(野口拓朗)

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