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 日本最大のブラジル人コミュニティーがある静岡・浜松やその周辺ではブラジルの文化があふれています。食文化、政治、格闘技など多彩です。労働災害も絶えない現状ではありますが、それでも日本社会に溶け込もうと懸命です。サンパウロの邦字紙の記者経験があり、現在は朝日新聞静岡総局で勤務する戸田和敬記者が報告します。

移民の苦難 乗り越えレストラン

 日本の22倍の国土を誇るブラジル。サンパウロのような南部の大都市と、北部のアマゾン川流域とでは移民の暮らしも大きく違う。アマゾンに移住した「移民1世」の夫妻に会い、現地の生活を聞いた。静岡県菊川市のレストランで「アマゾンの味」を提供する大川保則さん(76)と妻の圭子さん(68)だ。

 サンパウロから北東に約3千キロ離れたアマゾン河口にある100万都市「ベレン」はジャングルに囲まれた島で「アマゾンのマンハッタン」と呼ばれる。記者は2018年9月、ベレン近郊の日本人移住地を訪ねたことがある。この時の気温は30度を超え、湿度も80%超。着くとすぐに、肌がじっとりと汗ばんだ。

拡大する写真・図版ベレンの街のシンボルで、アマゾン川の産品が集まる市場「ヴェロぺーゾ」(右の建物)=2018年9月、ブラジル・パラ―州ベレン、戸田和敬撮影

 約90年前の1929年、日本から渡航したアマゾン移民が最初に降り立ったのがベレンだ。川の上流域にはかつて無数の日本人移住地があったとされるが、記録がほとんど残っていない場所も多い。

 移民らは小舟に揺られて未開の土地に入植したが、ジャングルでの暮らしは苦難の連続だった。

 アマゾン移民を派遣するに辺り、日本政府は1年間を通じた現地調査をせず、大潮の時期に農業が可能かどうかなど、調査不足だったとの指摘がある。「棄民として扱われた」と、国を相手取った訴訟も起きた。

 保則さんは56年、11歳のときに香川県から家族とベレン近郊の「グァマ」に入植した。雨期と乾期で約4メートルも水位が変わる川のほとりに約60家族が住み、200メートルほどの間隔で土地を分けて暮らした。

 高床式の家を建てて水を避け、田畑で米とキャベツを育てた。しかし大潮の時期になると、田畑は水没。植えていたバナナの木も枯れてしまった。「農業が成り立つような場所ではなかった」と、保則さんは思い返す。

 野菜を食べることが少なかった当時のブラジルでは、収穫した野菜も全く売れなかった。家族は3年ほどで開拓地を出て、生活のために何度も転居した。転居先の一つ、アマゾン川に浮かぶ小島「クチジューバ」では、黒コショウ(ピメンタ)を栽培した。

 産地の東南アジアが第2次世界大戦の戦場になったことで栽培が低迷し、南米でコショウの価格が高騰した。「黒ダイヤ」と呼ばれたコショウをドル建てで輸出した移民が建てた「ピメンタ御殿」と呼ばれる豪邸は今でも残っている。

 豊かな暮らしは再び暗転する。保則さんはコショウ50トンで、密林の中にサッカーコートの約70倍にもなる土地を買い、20年近くコショウ栽培をしたが、病害が蔓延(まんえん)して収穫が激減。インフレの急進もあって事業は経営破綻(はたん)した。失意のうちに土地や農機具を売って旅費に代え、妻の圭子さんと89年にデカセギとして帰国した。

拡大する写真・図版アマゾンの郷土料理を原料から作っている大川さん夫婦=2020年3月8日午後6時21分、菊川市下平川城下、戸田和敬撮影

 湖西市にあるスズキの工場で働いた後、スーパーを経営するために一度はブラジルに戻ったが、やはりうまくいかずに再来日。栃木や滋賀などの工場を転々として作業に追われる日々の中で、恋しくなったのがアマゾンの味だった。農園経営のように「自分で仕事がしたい」との思いが強く、2006年に菊川市内を南北に流れる牛渕川沿いに現在のレストラン「COSMOS」を開店した。

 「日本ではうちだけ」という、原材料も手作りで再現したアマゾン料理が売りだ。一般のブラジル料理とは違う独特の苦みがあり、少し舌がヒリヒリする。

 タピオカの原料でもあるキャッサバ芋の葉を肉などと数日間煮込んだ「マニソバ」。先住民が芋を食べて残った部分を煮込んで食べたことが起源だとされ、ベレンでは公園の屋台などで売られている大衆料理で「ベレン風フェイジョアーダ」とも言われる。アマゾンのしびれ草「ジャンブー」でエビなどを煮込んだ料理「タカカ」もある。

拡大する写真・図版キャッサバの葉を肉などと煮込んだ「マニソバ」(手前)。しびれ草でエビなどを煮込んだ「タカカ」(右)。エビのだしをパクチーやココナッツミルクで煮詰めた「バタパー」(左)。キャッサバの搾り汁「トゥクピー」をベースに、鶏肉を煮込んだ料理(奥)=菊川市

 原料のキャッサバやピメンチーニャ(小さな唐辛子)などはすべて自家製だが、現地と同じ環境で育てるのは難しい。料理のだし汁になる「トゥクピー」は、キャッサバの搾り汁を発酵させたものだが、高温多湿のアマゾンと違って日本の冬では発酵しない。夏には発酵し過ぎて酸っぱくなるので「なめて味見しないとわからない」。現地の味を知る圭子さんの感覚だけが頼りだ。

 原料の通信販売もしており、故郷の味を求めるブラジル人や東京の飲食店から注文が入るという。日本で「アマゾン」といえば希少な生物や大規模開発、先住民の生活などが注目されがちだが、保則さんは「食への注目が高まっている」と感じている。アマゾン原産のアサイーやマラクジャーといった果実は日系企業を通じて輸入され、一般に知られるようになった。

 郷土料理の知名度はまだこれからだが、保則さんは「アマゾンで生きた移民だからこそ、日本で伝えられる味がある。日本人とアマゾンとの距離が食で近づくよう努めたい」と語る。

記事の後半では、日本にいるブラジル人が「ブラジルのトランプ」と呼ばれるボルソナーロ大統領を圧倒的に支持する事情や、日系ブラジル人が直面する労災、さらに伝統格闘技カポエイラについて、戸田記者が報告します。

ボルソナーロ支持の裏に

 「ブラジルのトランプ」などと…

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