誤解に注意 有効なワクチンでも、接種直後は効きません

酒井健司
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 世界各国で新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種がはじまりました。2021年1月5日の時点において、全世界で約1500万人、米国だけで約500万人が一回目の接種を受けました。大量のワクチンを製造し、輸送し、人々に接種するのはたいへんな仕事です。米国では感染者も死亡者も多く、新型コロナ対策はあまりうまくいっていませんでしたが、だからこそワクチンに期待をかけているのでしょう。

 さて、米国の看護師が、ファイザー製のワクチンの接種後1週間あまりで新型コロナを発症したというニュースが、昨年末に流れてきました。

 生きたウイルスを使う生ワクチンなら、ごくまれにワクチン由来のウイルスに感染し発症することもありますが、新型コロナワクチンは生ワクチンではないので、ワクチンのせいで新型コロナに感染することはありません。この事例はワクチン接種とは関係なく感染・発症したものと考えられます。そりゃあ何百万人もの人がワクチン接種を受けるのですから、ワクチン接種と無関係に発症する人がいるのは当然でしょう。

 医療の不確実性はしばしば理解が難しいところがあります。ワクチン接種後に新型コロナに感染したら、ワクチンは効かないと短絡的に誤解しやすいです。これは他のワクチンにも言えます。以前、「インフルエンザワクチンを打った直後にインフルエンザになったからインフルエンザワクチンやめた」とおっしゃった「医療ジャーナリスト」がいました。医療ジャーナリストを名乗るなら、そうした誤解を解くような情報発信をしていただきたいです。

 かなり大雑把ですが、ワクチン接種後に新型コロナに感染する人の数を推定することはできます。アメリカ合衆国では昨年末は1日あたり約20万人の新規感染が確認されていました。人口は約3億人ですので、1日あたり人口の約0.07%が感染が確認されていることになります。昨年末時点でワクチン接種を受けたのは約200万人で、その約0.07%は約1400人の計算になります。

 ワクチン接種を受けた人たちは一般集団とかなり異なり単純比較はできませんが、それにしてもワクチン接種後に新型コロナに感染した人が1人や2人であるはずがないとは言えます。約1400人というのは1日あたりの数字で、ワクチン接種者の数がどんどん増えていることも合わせて考えると、ワクチン接種後に新型コロナに感染した人がすでに数万人いてもまったく不思議ではありません。

 いったいなぜアメリカの看護師の一例のみがニュースになったのか、理由はわかりません。有効なワクチンであってもワクチン接種しばらくは予防効果がないことを周知する役には立ったと、好意的に考えることにします。

 リアルワールドでどれぐらいの有効率があるかの検証はこれからですが、臨床試験では、ファイザーのワクチンは1回目のワクチン接種から10日間ほどで発症を予防する効果が見えはじめ、2回目の接種の7日後以降は約95%の有効率を示しました。本当ならワクチンの中でも高い有効率ですが5%はワクチンを打っても発症を予防できません。有効なワクチンを接種して十分に時間が経っても、新型コロナを発症してしまう人はいます。ワクチンは、というか医療とは、そういうものです。

 ワクチン接種が日本ではじまると、同じようにワクチン接種後に感染したという事例は必ず出てきます。中には重症化する人もいるでしょうし、亡くなる人もいるでしょう。SNSやメディアでワクチンは効かないと煽るようなことがあるかもしれません。しかし、短絡的に効かないと決めつけず、あくまでワクチンを打たなかった場合と比べてどうなのかを見極めましょう。

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