緊急事態宣言再び、渋谷を見つめた3日間

新型コロナウイルス

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 新型コロナの感染拡大をうけて、首都圏に2度目の緊急事態宣言が出されました。街の風景はどう変わるのか。東京・渋谷から、社会部の記者たちによる7~9日の3日間の報告です。

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多くの飲食店が閉店時間を迎えたなか、渋谷センターを歩く人たち=2021年1月9日午後8時45分、東京都渋谷区、増山祐史撮影

9日20:15

 午後8時を過ぎると、前日と同様に、センター街から渋谷駅へ向かう人の流れが生まれた。多くの飲食店やカラオケ店が閉店作業に追われる一方、アパレル店などは開いている。コンビニの前では、缶ビールを飲んだり、ハンバーガーを食べたりしている若い男性グループがいた。

 横浜市の会社員男性(21)は友人らとスマホで営業中の店を探していた。「あの店は?」「行ってみないと分からないな」

 高校の同級生で、年末から飲むことを決めていた。やめるかどうか迷ったけれど、社会人だとなかなか日程が合わないから、という。「あと2時間で帰るので、許容範囲じゃないですか」。そう言って検索を続けていた。

 通りでは居酒屋の男性店員(23)の「お兄さん、飲みないっすか。24時まであいてますよ」という呼び込みの声が響く。「みんな我慢の限界なんじゃないんですか」。さっそく3人組の男女が店に向かった。

9日16:30

 夕日が沈み始めた。高速バス乗り場には、緊急事態宣言を受けて東京を離れる人の姿がぽつぽつとあった。

 黒のショルダーバッグをさげてバスを待っていたのは、JR渋谷駅近くで馬肉店を経営している男性(66)。宣言を見据えて昨年末から休業している。協力金だけでは月200万円以上の固定費は到底まかなえないが、「店を開ければ経費もかさむし、東京は感染のリスクも高い」。

 しばらくはもう1店舗を構える大阪で過ごすという。「次に東京に来る時はコロナはどうなってるんやろうな」とつぶやき、バスに乗り込んでいった。

 都内の大学に通う女性(22)は、黄色のスーツケースを引いてバス乗り場を探していた。年末年始は浜松市の実家への帰省をやめたが、「お店もほとんど閉まっちゃう。授業もないし、東京にいる意味がないから」と実家に帰ることにしたという。

 来春の就職は決まったが、友人と遊ぶ計画も一人旅の予定も白紙になった。「家で遅めのお雑煮を食べて、のんびり過ごします」

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ハチ公前広場には友人と待ち合わせる人の姿があった=2021年1月9日午後6時21分、東京都渋谷区、増山祐史撮影

9日13:45

 ハチ公周辺では知人らと待ち合わせをしているような人の姿が多い。そばのベンチは、利用者が距離を置いて座っている。

 スマートフォンを操作していた千葉市の女子高生(15)はボーイフレンドを待っているという。これから渋谷109をのぞいて、原宿まで歩いて、明治神宮にちょっと遅い初詣に行こうかな、と思っている。

 昨春に比べ、気持ちは明るいという。あの頃は高校が休校になり、ずっと家にいた。友達とはLINEでしかやりとりができず、気持ちが沈むこともあった。「いまは学校に行けるし、友達にも会える。こういうやり方が大事だと思う」

 マスクも消毒液も確保できるし、自分も感染防止を気をつけているので、外に出るのも必要だと思います、と語った。明治神宮に行ったら、ボーイフレンドとずっと仲良くしたいということと、一日も早いコロナの収束を願うつもりだ。

9日11:00

 渋谷109の前。きのうと同じくらいの人数の若い男女や家族連れが開店を待っていた。列が歩道までのびる。都外からセールを目当てに知人と来た30代の男性は「前から来ようと約束していたので。マスクをして、最低限の時間で帰るつもり」と話していた。

 開店待ちは46人。付近で入店を待っていた人を含めると7日は約25人、8日は約45人だった。

 とはいえ、いつもの週末よりは人数が少ないらしい。近くで路上の清掃をしていた男性(80)は仕事の手を止め、「掃除してても足元は見えるからね。ここは週末に人波が途切れない場所だったんだけど、コロナ前の週末に比べたら半分。コロナ後の週末となら7、8割ってところかな」と教えてくれた。

 昨春の最初の緊急事態宣言後は、渋谷から人が消えたと思うくらい行き交う人が減ったというが、2度目にはそんな驚きは感じられない。男性は「用心はしているんだろうけど。自分は大丈夫という思いもあるのかな」と仕事に戻った。

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連休初日の渋谷スクランブル交差点=2021年1月9日午前11時16分、東京都渋谷区、山本亮介撮影

8日20:50

 約1カ月ぶりに渋谷を訪れたという都内の20代会社員女性は、スクランブル交差点のそばで友人を待つ間に遭遇した光景に驚いた。「金曜日のこの時間に、こんなに大勢、駅に向かう人がいるなんて」

 職場のテレビで都内の感染者が2千人を超えたニュース見て、「またか」と思った。約束通り友人と待ち合わせをしたが、食事はせずに帰ることにした。「私たちも我慢した方がいいのかもしれません。この風景がしばらく続くのがいいのかな」

8日16:00

 スクランブル交差点脇にある公衆喫煙所が使用禁止になっていた。入り口は黄色いテープで封鎖され、「クラスター対策として、当面の間、この喫煙所は閉鎖いたします」という通知が掲示されていた。

 確かに。いつも深夜まで喫煙者でごった返す場所だった。知らずにたばこを吸いに来た男性は「きょうの午後1時半ごろは吸えたんだけど。まあ、いまの状況なら仕方ないか。他の場所を探さないと。お兄さん、知らない?」。

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スクランブル交差点脇にあり、いつも喫煙者で密集していた公衆喫煙所が閉鎖されていた=2021年1月8日、東京都渋谷区、木村浩之撮影

8日15:15

 駅前のスクランブル交差点で信号待ちをする川崎市の主婦(47)が、ビルの大画面に流れる文字ニュースを見つめていた。東京都でこの日、新規感染者がまた2千人を超えたことを伝えていた。「今回の緊急事態宣言は中途半端感があります。本当に感染者は減るのでしょうか」。信号が切り替わると、大勢の人が交差点を行き交った。

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ビルの大画面ではコロナ関連のニュースが次々と伝えられる=2021年1月8日、東京都渋谷区、木村浩之撮影

 高校生の長女と小学生の次女は、学校に通い始めた。この日は次女の学校で使う教材を買いに渋谷まで来たが、街に制服姿の若者が多いことに驚いた。

 始業式前の昨日は、学校から臨時休校や分散登校などの緊急連絡が来るかもしれないと身構えたが、何もなかった。昨春の緊急事態宣言のときとの落差に戸惑う。「子どもを学校に行かせたくない思いがある。政府は会社員にはテレワークを求めるのだから、可能な学校はもっとリモート授業を増やしてほしい」

8日15:00

 「長きに渡りたくさんのご愛顧、誠にありがとうございました」

 「突然ではございますが2020年11月23日をもちまして閉店させていただくことになりました」

 スクランブル交差点から渋谷センター街のアーチをくぐり、数百メートル進むと、こんな貼り紙に出会う。飲食店だったであろう居抜きの物件や、上階へのテナント募集広告も目立つ。

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ビルの壁にはられたテナント募集の広告=2021年1月8日午後3時0分、東京都渋谷区、山本亮介撮影

 帝国データバンクによると、昨年の飲食店事業者の倒産件数(負債が1千万円以上)は780件で、現在の統計の基準となった2000年以降で最多となった。昨年4~5月の緊急事態宣言で、営業の自粛や営業時間の短縮を迫られた飲食店。同社東京支社情報部の担当者は「一昨年の増税に加え、新型コロナで最も厳しい影響を受けた形だ」とみる。

8日14:30

 スクランブル交差点のすぐそばで新聞や雑誌を売る売店には、多いときには数分おきにお客さんがやってきて、目当ての新聞や雑誌に手を伸ばし、小銭を置いていく。「あしたは競馬あるよね」と確認しながら、新聞を求める白髪の男性が目立つ。

 この店で仕事を始めて15年ほどという男性(58)は「うちの客はほとんどが高齢だからね」と笑った。

 昨年4月の最初の緊急事態宣言で、客足はぱたっと止まった。「高齢者だから出歩くのを敬遠したのかな」。一時は8割も減った売り上げは数カ月かけて徐々に、徐々に戻ってきた。「また、だめでしょう。うちには支援もないからね」とあきらめ顔だ。

 そもそも紙媒体に元気がないという。漫画雑誌は、多い時期には300冊近く売れる週刊誌もあった。「今は全体的に減っている」。ただ、どの新聞を選ぶかで、お客の個性もわかるそうで「朝日新聞を選ぶ人は、真面目そうで、ちょっと暗めの人が多いかな」と教えてくれた。

8日11:00

 流行ファッションの発信基地「渋谷109」が開き、若者ら50人前後が次々と店へ入っていった。前日も同じくらいの人数だった。緊急事態宣言の前後で大きな変化は見られない。

 駅周辺のビルの大画面が示す気温は4度だが、買い物を終えたらしい渋谷区フリーター女性(23)は、黒いミニスカートに黒いロングブーツ。「シブヤ」的なファッションだ。「毎日毎日、暗いニュースばかりなので、気晴らしです。でも、やっぱり不安があり、結局何も買っていません」

 普段は渋谷のバーでアルバイトをし、生活費をかせぐ。午後8時から未明まで勤務するが、この日は休み。緊急事態宣言を受け、店の経営者は、休業するか日中から午後8時まで営業するかなどを決めかねているという。

 「もし休業しても、協力金を活用して、ある程度お給料はもらえるという話だが、長引けばどうなるか」と苦笑した。「昼間の飲食はOKで、なぜ夜はダメなのかが分からない。予約制などにすれば、密は避けられると思うのですが」と不満を口にした。

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緊急事態宣言後も日中の渋谷は人通りが多かった=2021年1月8日、東京都渋谷区、木村浩之撮影

8日08:00

 緊急事態宣言が出て最初の朝を迎えた。駅前のスクランブル交差点を歩く人の数は、前日の朝の光景とほぼ変わりがなかった。交差点を見下ろすように取り囲む大型ビジョンには「緊急事態宣言の再発令で飲食業中心に失業増」などのテロップが流れている。

 黒いスーツケースをひいた男性(29)がハチ公前のベンチで缶コーヒーをすすっていた。今からハローワークに向かうところだという。アルバイト先のレストランがつぶれ、昨夏から日雇いの仕事で食いつなぐ。

 自分の店を持つことを夢に岐阜県から上京してきたが、「今は夢なんて言える状況じゃない。手に職をつけないと」。貯金はわずか3200円。スーツケースに入れた服は4日間洗っていないという。「(宣言は)興味ない。いつどんな形で出ようが、僕みたいな状況の人には関係ないんで」と去っていった。

8日00:00

 日付が変わると、スクランブル交差点を照らす大型スクリーンが一斉に消えた。しばらくすると、JR渋谷駅そばのカラオケ店から2人組の女性が出てきた。

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午前0時を回ると、スクランブル交差点を囲む大型ビジョンの大半が一斉に消えた=2021年1月8日午前0時0分、東京都渋谷区、山本亮介撮影

 カラオケ店では歌は歌わず、大好きなアイドルグループのライブ配信を大音量で楽しんだという。カラオケ店は午後8時までの営業時間短縮の要請の対象となったが、女性の一人は「これだけ感染が広がれば、規制は当然。だって、このままじゃライブがいつまでたっても見られないし」と話し、終電が近づく駅へと向かっていった。

 街を行く若い人たちが減る一方、増えるのは工事などの作業員だ。駅東口や国道246号を挟んだ桜丘町では、高さ10メートル以上のクレーンが動き出した。

 東急が中心となった九つの再開発プロジェクトが並行して進んでおり、2012年以降、渋谷ヒカリエ、渋谷ストリームといった大規模なビルが次々に建ち、19年には新たに渋谷スクランブルスクエアと渋谷フクラスが加わった。計画では27年度まで続く予定だ。

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JR渋谷駅の終電が近づき、周辺の人の流れが途絶えると、重機や作業員の動きが活発になった=2021年1月8日午前0時56分、東京都渋谷区、山本亮介撮影

7日20:00

 渋谷区宇田川町のデパート「PARCO渋谷」入り口に飾られたドラえもんの像の周囲で、何度もスマートフォンで写真を撮っている男性がいた。都内の会社員男性(57)。仕事帰りに用事があって渋谷に寄ったら、偶然見つけたという。

 「いま、ドラえもんに一つ、道具を出してもらえるとしたら」と尋ねると、男性は「実はあまり詳しくはないんだけどね……」と言って数秒考え、「タイムマシンですかね」と答えてくれた。「やはり国は新型コロナウイルスを甘く見ていたと思う。感染が拡大する前の世の中に戻って、命を最優先にした政策をとってもらいたい」

 新型コロナで友人を2人、亡くしたという。一人は60歳だった。「私も新型コロナの本当の恐ろしさをわかっていなかったのだと思う」。当たり前のように満員の電車に揺られ、通勤していたからだ。

 男性は詳しい仕事の内容は教えられないということだったけど、8日からも、しばらくの間は出勤が必要だという。「寄り道もきょうが最後。経済も大事だけど、命がなくなったら、楽しいことも何もできなくなってしまうから」

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デパート前に飾られたドラえもんの像の周りには、スマートフォンで写真を撮る人の姿が絶えなかった=2021年1月7日午後8時10分、東京都渋谷区宇田川町、山本亮介撮影

7日18:15

 渋谷のワインバー。緊急事態宣言をめぐる菅義偉首相の記者会見が始まる5分前から、従業員の女性(33)は店内のテレビを準備し、経営を心配するお客さんと一緒に見つめた。

 会食を介した感染が増えている、と画面の向こうで菅首相が理由を説明をする。女性は「どうして飲食店が狙いうちされるのか。会食が悪いという根拠はあるのだろうか」と不満を漏らした。

 同店はコロナ禍の前までは夕方から未明までを営業時間としていた。酒類の提供が午後7時までとされたことに対し、「昼飲みする人は少ない。現実を分かっていない」。協力金についても「家賃が高いところと低いところで一律支給はおかしい。つぶれる飲食店が出てくるだろう」と顔を曇らせた。

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「店名公表すれば、そこの店に集まり、密になる。昨春もそうだった」。菅首相会見をテレビで見る飲食店の従業員(左)らからは不満が漏れた=2021年1月7日、東京都渋谷区、木村浩之撮影

7日17:00

 宮下公園跡地に昨年6月オープンした商業施設「MIYASHITA PARK」。「4階建ての公園」をコンセプトに約90店が軒を連ねる。明治通り沿いの1階はフランスイタリアの高級ブランド店が並び、ロングコート姿の男性スタッフが客を招き入れた。

 一方、すぐそばの公園の公衆トイレの脇では、毛玉の目立つニットを重ね着した男性(47)が、衣類や調理器具が詰まったキャリーバッグを整理していた。横浜市のアパートから立ち退きを迫られ、昨年9月から路上生活が続いているという。

 都内の感染者数が2千人を超えたと伝えると、「この半月、公園から見える電車の乗客数が減ったと感じていた。まだ増えるんじゃないかな」と話した。2度目の緊急事態宣言が出される見込みと知り、「苦しくても我慢できる人とできない人がいる。我慢できる人に合わせる政策はとってほしくない」という。

 持っていた衣類をリサイクルショップに売り、大手ディスカウントショップで一玉30円ほどのうどんをまとめ買いする。カセットコンロでゆでる素うどんが主食だ。まだ数カ月分は生きていけるという。隣で寝起きする同じくらいの年齢の男性がこの2日間、荷物を置いたまま姿が見えないのが気にかかる。

 都内の気温は8度ほど。風が強く、街路樹を揺らす。男性は肩をすくめ、この日の午前中に明治神宮に行ったことを教えてくれた。人影の少ない社殿で手を合わせ、祈ったという。「自分だけがよければいい、という考えの人がどうか少なくなってほしい」

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商業施設に面した歩道脇に置かれた荷物。男性によると、路上で生活する人たちの所持品という=2021年1月7日、東京都渋谷区神宮前6丁目、山本亮介撮影

7日15:10

 スクランブル交差点を見下ろす大型ビジョンに「東京都で新たに2447人の新型コロナ感染確認」の速報が流れる。

 ハチ公前で友人を待ちながらスマホをいじっていた大学生の男性(21)は「あっという間に1千人、2千人と増えたから、過去最高と言われても『またか』と思っちゃう」と話す。

 富山の実家への帰省をやめ、飲み会は控えている。「マスクを外して話さないから大丈夫」と、この日は友人と買い物に来たという。緊急事態宣言が出されることはニュースで知ったが「何が制限されて何は許されるのか、正直よく分からない。前回みたいに飲食以外も閉まったら困るけど」。やがて友人が到着し、「SHIBUYA109」へと向かっていった。

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大型ビジョンでは東京都の新規感染者数を伝える速報が流れた=2021年1月7日午後3時48分、東京都渋谷区、増山祐史撮影

7日13:00

 ハローワークには、若者から高齢者まで幅広い年代の人たちが仕事を探しに訪れていた。

 世田谷区に住む男性(46)は昨春まで印刷会社に派遣社員として働いていたが、新型コロナウイルスの影響で契約が更新されなかったという。しばらくはイベントスタッフなど単発の仕事で食いつないでいたが、感染が「第3波」を迎えた昨秋に、ついに仕事が入らなくなった。

 10万円ほどの貯金はあっという間になくなり、家賃も滞納が続く。「このままだとのたれ死んでしまう」と、わらにもすがる思いで仕事を探しにきた。

 比較的求人が多いのは重労働だが、腰に持病を抱えているため、できない。「緊急事態宣言が出たらどうなるのか。明日生きていけるかも心配だ」とこぼす。

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