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 【静岡】大規模災害時に孤立しがちな在宅避難者を自転車で支援しようという社会実験が浜名湖の周辺で進んでいる。小回りのきいたフットワークは武器だが、課題もありそうだ。

 2017年5月施行の「自転車活用推進法」の基本方針の一つに「災害時の有効活用体制の整備」がある。ただ、「まだ具体的になっている自治体はない」。そう話すのは、浜名湖サイクルツーリズム推進会議ワーキンググループリーダーの山内秀彦さん(60)だ。

 今年度の国土交通省の社会実験の公募に、浜名湖周辺を対象とした「災害時自転車活用社会実験」が採択された。自治体と在宅避難者の間で、支援物資の運搬や情報の伝達に自転車を活用するのが主な目的だ。浜松市や湖西市、県、自転車団体などで構成する「浜名湖サイクルツーリズム災害連携社会実験協議会」が実施主体。山内さんはその事務局であるNPO法人の代表理事でもある。

 きっかけは東日本大震災だ。発災から1週間ほど経ったころ、義父を迎えに車で福島県いわき市へ向かった。幹線道路は優先的にがれきなどが取り除かれていたものの、生活道路は倒壊物が邪魔をして車が通れない所が多かった。その道を、ポリタンクを持ち、水を求めて延々と歩く人たちがいた。「自転車なら楽なのに」と感じた。

 その後、ボランティアで岩手県の大船渡、陸前高田、大槌などに入り、孤立しがちな在宅避難者の支援を始めた。ただ、役所は罹災(りさい)証明の手続きなどで手が回らず、個人情報保護の問題もあってどこにどんな人がいるのかも分からない。車で一軒一軒回り、インターホンを押した。「困っていることはないですか」と話しかけた。「水が出ないのでトイレが使えない」「いつ、どこに、どんな物資が届くのか分からない。情報がなくて不安」。様々な声が集まった。

 2トントラックに積んでいった4台の自転車も被災者に喜ばれた。支援活動でも、ある程度の範囲を細かく、何度も訪問するには自転車が有効だと感じた。「起伏のある三陸でそうなら、平らな浜名湖周辺ならもっと重宝するはず」

 昨年末、3度目の実験を湖西市で行った。県立浜名特別支援学校を避難所に見立て、自転車愛好家ら12人が3グループに別れ、あらかじめ協力をお願いしていた人の自宅や公共施設に水やインスタントラーメンなどの支援物資を配った。市役所からのお知らせを手渡し、困っていることも聞いた。

 学校に戻った参加者は、避難者役の人から聞き取った「困っていること」を項目別に分けるなど見やすい形にまとめ、湖西市の担当者に伝えた。感じたことも出し合った。

 男性は「自転車ならこまめに何度も通い、情報を伝えたり困りごとを聞いたりできそうだ」。別の男性は「車と違い、自転車なら気軽に声をかけてくれるのでは」と手応えを感じた様子。

 一方で、電動アシスト付き自転車を借りて参加した女性は「自分の自転車で運べるかどうか不安」。男性は「水を運ぶにも量に限界がある」と漏らした。

 災害時の避難は徒歩が原則とされるが、国土交通省の調査によると、東日本大震災では55%の人が車を使った。渋滞が起き、車内で津波被害にあった人も多い。山内さんは「病気やけが、高齢者など車を使わなければいけない人もいるが、使える人は自転車で避難すれば渋滞を軽減できるのでは」。自治体に提案しても原則が壁となるという。「実験で自転車の有効性を示し、『風穴』を開けたい」と話す。

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 東日本大震災から11日で9年10カ月となった。(須田世紀)

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