逃げていいよ、また戻れる 燃え殻さんから10代の君へ

聞き手・斉藤佑介
[PR]

10代の君へ 作家・燃え殻さん

 10代は暗黒時代でした。足が遅い、勉強ができない、集団行動が苦手で、友達もいない。中学も高校も全然なじめなくて、生徒手帳のカレンダーに1日終わって帰るたびに「×」をつけていました。

 当時はひとりで勝手に学級新聞を書いてましたね。先生の似顔絵とか4コマ漫画とか。学校に貼り出して、2時間目までに不良に破られるんです。毎日その繰り返し。あの頃は、今日をやり過ごせる言葉や勇気を少しでいいからくれないか、とずっと思っていました。支えの一つが深夜ラジオ。「俺だけに話しかけてくれている」と感じてすごく救われました。

 今の10代の周りでは「あきらめる装置」だけが発達した気がする。当時、学級新聞は破られても夢までは破られなかった。でも今は「食べログで点数が低い」「あの文章くだらない」とか、インスタグラムも「映(ば)えないとつまらない」と言われて。誰かの物差しで「つまらない」と排除してしまう。馬鹿にされても、評論家に認められなくても、好きなものが自分にはある。それを人生の中でいかに持てるかが大事じゃないかな。僕の場合は学級新聞だった。インスタでハートマークがつかなくても、「私の人生つまんない」と思わなくて大丈夫。

 今の10代は、ラインやTikTokを使いこなしてすごい。それだけで自分を認めてほしい。小説の書き方も知らなかった自分がいま本を書いているけど、最弱でも戦い方はあるから。みんなも何でもできる。

 僕は10代の頃、受験から、部活から、友達関係から逃げた。山手線で降りたことのない駅でよく下車しました。ある日、見知らぬ中華料理屋で店主とおじさんと3人で相撲の中継を見たんです。この人たちとは一期一会なんだと思った瞬間、緊張が解けた。40代になっても仕事を休んで逃げたことがある。

 見知らぬ町に行くと、自分の人生のB面に出会うような感じがして、こういう人生もあるのか、と思うとまた元の人生に戻っていけるんです。逃げていい。逃げ先はたくさんあるよ。(聞き手・斉藤佑介)

     ◇

 もえがら 作家・美術制作会社員。1973年、神奈川県出身。2017年、デビュー小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」がベストセラー。昨年12月に「相談の森」を出版。

【動画】10代の読者へメッセージを送る小説家の燃え殻さん=遠藤啓生撮影