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 サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)で認知症の入居者を虐待したとして、暴行罪に問われた元職員西崎直美被告(57)の判決公判が12日、神戸地裁明石支部(太田敬司裁判官)であった。実務経験25年の介護職員だった被告には有罪判決が言い渡された一方、太田裁判官が指摘した事件の背景とは――。

 西崎被告は昨年9月20日夜から翌21日朝にかけ、兵庫県明石市のサ高住「シルバーハウスはやしの南」で、認知症の80代の男性入居者の頭をたたいたり、体を蹴ったりするなどしたとして暴行罪で起訴された。

 先月22日にあった初公判。検察側の証拠調べで、法廷内のモニターに10本ほどの映像が映し出された。

 「寝てください、寝て、寝て」。夜間、ベッドに腰掛ける男性に、中年の女が何度も声を荒らげた。

 女は、言うとおりにしない男性の横腹を殴ったり背中を蹴ったり。ベッドから起き上がろうとすると、女が頭をはたき、男性はベッドに倒れ込んだ。さらには、女が男性をベッドから床に引きずり下ろし、何度も踏みつける場面も。男性は「あぁあぁ」と苦しそうな声を上げた。

 映っていた女は、西崎被告。映像が流れている間、白髪交じりの被告は終始うつむいていた。

 被害男性は認知症だった。自ら被害を訴えることは難しく、虐待が発覚しにくいとされる。今回の事件は、施設側が西崎被告の虐待を疑って設置したカメラの映像から浮上した。弁護人が「暴力がばれていなかったら続けていたと思うか」と問うと、西崎被告は「続けていたかもしれない」と答えた。

夜勤16時間半

 検察側の冒頭陳述などで事件の経緯が明らかになった。

 西崎被告は1996年から介護職員として働いてきたキャリア約25年のベテラン。このサ高住では2019年5月から、主に週3回夕方から翌朝までの16時間半の夜勤をこなした。うち12時間は1人勤務だった。

 被害男性が入居したのは、事件の半月余り前の昨年9月3日。施設に入居する際の資料には夜中に24回トイレに行くとあった。入居約1週間後から夜中にトイレに行く回数が異常に増え、その度に西崎被告は呼び出されるため、次第に腹立たしくなったという。

 検察側は、西崎被告が人手不足に対する不満を抱いていたと指摘。被告人質問でも職場環境をめぐるやりとりがあった。

 弁護人「なぜ暴力を」

 被告「指示しても(被害男性に)言うことが通じず、手がかかった。そのせいで他の人の介助が後回しになってしまう。労働環境を良くしてくれないことも不満だった」

 弁護人「上司に対応を求めたことは」

 被告「トイレの訴えが多いので泌尿器科の受診を相談した。でも『日中はトイレの訴えがないから受診の必要はない。寝る前に子どもがぐずるようなもんだろ』と言われただけだった」

 ただ施設側の認識とは食い違いをみせる。朝日新聞の取材に対し、施設幹部は「(西崎被告から)具体的に不満を訴えられたりすることは全くなかった。なぜ暴力を振るったのか、わからない」と話した。

 12日、懲役6カ月執行猶予3年(求刑懲役6カ月)が言い渡された。

 太田裁判官は「暴力を振るってストレスを解消したことは許されず、動機に酌量の余地は乏しい」。一方で「施設はかなりの人手不足で上司に労働条件の改善を訴えたが取り上げてもらえなかった」とも言及し、「手のかかる被害者が入所したことで、夜勤の負担が増大したことが背景にある」と指摘した。(笹山大志)